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放射線物理学

線量の単位と測定(吸収線量・カーマ・照射線量・電離箱)

放射線物理学シリーズの最後は、線量です。この分野は国家試験でいちばん出題が多く、似た名前の量がたくさん出てくるので混乱しがちです。

でも整理の軸は2つだけです。「何を測っているか」と「どの放射線に使えるか」。この2点で並べると、5つの量の関係がすっきりします。

5つの線量:何を測り、何に使えるか

放射線が物質にエネルギーを渡す流れは、光子が来る → 電子をはじき出す → その電子が物質にエネルギーを置いていくという順番です。どの段階を測るかで、量の名前が変わります。

線量の種類と測る段階 放射線がエネルギーを渡す流れに沿って線量を並べた図。光子が空気中で作る電荷の量が照射線量で、X線とガンマ線にしか使えない。光子や中性子が二次電子に渡した運動エネルギーがカーマで、間接電離放射線に使える。実際に物質に吸収されたエネルギーが吸収線量で、あらゆる放射線と物質に使える。吸収線量に放射線の種類の重みを掛けたものが等価線量、さらに臓器ごとの重みを掛けて足したものが実効線量。 何を測っているか 単位 使える放射線 照射線量 X いちばん古い量 空気中で光子が作る電荷の量 C/kg X線・γ線だけ 空気限定 カーマ K Kinetic Energy Released 二次電子に渡した運動エネルギー Gy 間接電離放射線 光子・中性子 吸収線量 D いちばん基本の量 実際に物質が吸収したエネルギー/質量 Gy すべての放射線 すべての物質 等価線量 H D × 放射線加重係数 放射線の種類による効きの差を加味 Sv 防護のための量 実効線量 E ΣH × 組織加重係数 臓器ごとの影響の差を加味して合算 Sv 全身のリスク評価 流れ:光子が来る → 電子をはじき出す(カーマ)→ その電子が置いていく(吸収線量) 照射線量だけは「空気中の電荷」という特殊な定義。だからX線・γ線にしか使えない
図1:線量の種類と、それぞれが測っている段階。吸収線量だけがすべての放射線・すべての物質に使える。

とくに大事なのが、「どの放射線に使えるか」の制限です。

  • 照射線量 … 「空気中で光子が作る電荷」という定義なので、X線・γ線専用。中性子や電子線には使えません
  • カーマ … 間接電離放射線(光子・中性子)が二次荷電粒子に渡した運動エネルギー。中性子にも使えます
  • 吸収線量 … 実際に吸収されたエネルギー。制限なし。だからいちばん基本の量です

W値:電離1個あたりのエネルギー

W値は、気体中でイオン対を1つ作るのに必要な平均エネルギーです。空気ではおよそ 34 eV

この値があると、照射線量(電荷)とカーマ(エネルギー)を換算できます。電荷1クーロンあたりに与えられたエネルギーが W/eW/e で、空気のW値34 eVは 34 J/C に相当します。

Kair=XWe=X×34[Gy]K_{\text{air}} = X \cdot \frac{W}{e} = X \times 34 \quad [\text{Gy}]

電離箱:空気の質量が測定値を決める

電離箱は、空洞内の空気が電離されてできた電荷を集めて測る装置です。ここでの鉄則は、測定値は「空洞内にある空気の質量」で決まるということです。

空気の質量=密度 × 体積なので、次の関係が導けます。

条件空気の密度電離量
温度が高い膨張して下がる減る
気圧が低い下がる減る
空洞の体積が大きい増える(比例)
W値が大きい減る(反比例:1個作るのに多くのエネルギーが要る)

印加電圧については、電離箱は飽和領域で使うので、電圧を上げても電離電流はほとんど変わりません。

温度気圧補正

測定時の温度・気圧は日によって変わるので、基準条件(22.0℃・101.3 kPa)に揃える補正をします。

kTP=273.2+T273.2+22.0×101.3Pk_{TP} = \frac{273.2 + T}{273.2 + 22.0} \times \frac{101.3}{P}

温度が高い・気圧が低いほど空気が薄くなり、電離量が減ります。それを補うので、補正係数は1より大きくなります。

ブラッグ・グレイの空洞理論

電離箱で測れるのは空洞内の空気の吸収線量ですが、知りたいのは水や組織の吸収線量です。この2つを結びつけるのがブラッグ・グレイの空洞理論です。

ブラッグ・グレイの空洞理論 水の中に置かれた小さな空気の空洞の図。光子が水中で二次電子を作り、その電子が空洞を通り抜ける。空洞は二次電子の飛程より十分小さいので、電子の流れ(フルエンス)を乱さない。このとき水の吸収線量は、空洞の吸収線量に水と空気の質量衝突阻止能の比を掛けて求められる。 水(測りたい物質) 空気の空洞 (電離箱) 光子 二次電子(水の中で生まれる) 飛程は空洞よりずっと長い → 空洞は電子の流れを乱さない =空洞内の電子フルエンスは一様 成立条件 空洞が飛程より 十分小さい 電子平衡が 成り立つ 水の吸収線量 = 空洞の吸収線量 × (水/空気の 質量衝突阻止能 の比) ※ 質量エネルギー吸収係数の比ではない(ここが最大のひっかけ)
図2:ブラッグ・グレイの空洞理論。空洞は二次電子の飛程より十分小さく、電子の流れを乱さない。換算に使うのは質量衝突阻止能の比。

成立する条件は次の2つです。

  • 空洞が二次電子の飛程より十分小さいこと。空洞が電子の流れを乱さず、空洞内の電子フルエンスが一様になる
  • 電子平衡が成り立っていること

このとき、2つの物質の吸収線量の比は、質量衝突阻止能の比になります。

DD空気=(Scol/ρ の水Scol/ρ の空気)\frac{D_{\text{水}}}{D_{\text{空気}}} = \left(\frac{S_{\text{col}}/\rho\ の水}{S_{\text{col}}/\rho\ の空気}\right)

質量エネルギー吸収係数の比ではありません。 ここが国家試験の最大のひっかけどころです。理屈で考えると、空洞を通り抜けているのは電子なので、電子に関する量である阻止能で換算するのが自然だと分かります(質量エネルギー吸収係数は光子に関する量です)。

防護量:等価線量と実効線量

ここまでの吸収線量は物理量でしたが、人体への影響を評価するには2段階の重みづけが必要です。

  1. 等価線量 H … 吸収線量に放射線加重係数を掛ける。同じ1 Gyでも、α線や中性子はX線より生物影響が大きいため(LETの話とつながります)
  2. 実効線量 E … 各臓器の等価線量に組織加重係数を掛けて全身分を合算する。同じ線量でも臓器によってリスクが違うため

どちらも単位はシーベルト(Sv)です。吸収線量のグレイ(Gy)とは意味が違うので、区別が重要です。

まとめ

  • 照射線量は「空気中で光子が作る電荷」[C/kg]。X線・γ線専用
  • カーマは二次荷電粒子に渡した運動エネルギー[Gy]。光子・中性子(間接電離放射線)に使える
  • 吸収線量は実際に吸収されたエネルギー[Gy]。すべての放射線・すべての物質に使える基本の量
  • W値(空気で約34 eV)で照射線量とカーマを換算。空気カーマ = 照射線量 × 34
  • 電離箱の測定値は空洞内の空気の質量で決まる。温度が高い・気圧が低い=電離量は減るので、補正係数は1より大きくなる
  • ブラッグ・グレイの空洞理論の換算は質量衝突阻止能の比(質量エネルギー吸収係数の比ではない)
  • 等価線量は放射線の種類の重み、実効線量は臓器の重みまで加味した防護量[Sv]

これで放射線物理学シリーズは完結です。過去問での問われ方は、過去問解説の記事一覧国家試験まとめから確認できます。

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