放射線物理学シリーズの最後は、線量です。この分野は国家試験でいちばん出題が多く、似た名前の量がたくさん出てくるので混乱しがちです。
でも整理の軸は2つだけです。「何を測っているか」と「どの放射線に使えるか」。この2点で並べると、5つの量の関係がすっきりします。
5つの線量:何を測り、何に使えるか
放射線が物質にエネルギーを渡す流れは、光子が来る → 電子をはじき出す → その電子が物質にエネルギーを置いていくという順番です。どの段階を測るかで、量の名前が変わります。
図1:線量の種類と、それぞれが測っている段階。吸収線量だけがすべての放射線・すべての物質に使える。
とくに大事なのが、「どの放射線に使えるか」の制限です。
- 照射線量 … 「空気中で光子が作る電荷」という定義なので、X線・γ線専用。中性子や電子線には使えません
- カーマ … 間接電離放射線(光子・中性子)が二次荷電粒子に渡した運動エネルギー。中性子にも使えます
- 吸収線量 … 実際に吸収されたエネルギー。制限なし。だからいちばん基本の量です
W値:電離1個あたりのエネルギー
W値は、気体中でイオン対を1つ作るのに必要な平均エネルギーです。空気ではおよそ 34 eV。
この値があると、照射線量(電荷)とカーマ(エネルギー)を換算できます。電荷1クーロンあたりに与えられたエネルギーが W/e で、空気のW値34 eVは 34 J/C に相当します。
Kair=X⋅eW=X×34[Gy]
電離箱:空気の質量が測定値を決める
電離箱は、空洞内の空気が電離されてできた電荷を集めて測る装置です。ここでの鉄則は、測定値は「空洞内にある空気の質量」で決まるということです。
空気の質量=密度 × 体積なので、次の関係が導けます。
| 条件 | 空気の密度 | 電離量 |
|---|
| 温度が高い | 膨張して下がる | 減る |
| 気圧が低い | 下がる | 減る |
| 空洞の体積が大きい | — | 増える(比例) |
| W値が大きい | — | 減る(反比例:1個作るのに多くのエネルギーが要る) |
印加電圧については、電離箱は飽和領域で使うので、電圧を上げても電離電流はほとんど変わりません。
温度気圧補正
測定時の温度・気圧は日によって変わるので、基準条件(22.0℃・101.3 kPa)に揃える補正をします。
kTP=273.2+22.0273.2+T×P101.3
温度が高い・気圧が低いほど空気が薄くなり、電離量が減ります。それを補うので、補正係数は1より大きくなります。
ブラッグ・グレイの空洞理論
電離箱で測れるのは空洞内の空気の吸収線量ですが、知りたいのは水や組織の吸収線量です。この2つを結びつけるのがブラッグ・グレイの空洞理論です。
図2:ブラッグ・グレイの空洞理論。空洞は二次電子の飛程より十分小さく、電子の流れを乱さない。換算に使うのは質量衝突阻止能の比。
成立する条件は次の2つです。
- 空洞が二次電子の飛程より十分小さいこと。空洞が電子の流れを乱さず、空洞内の電子フルエンスが一様になる
- 電子平衡が成り立っていること
このとき、2つの物質の吸収線量の比は、質量衝突阻止能の比になります。
D空気D水=(Scol/ρ の空気Scol/ρ の水)
質量エネルギー吸収係数の比ではありません。 ここが国家試験の最大のひっかけどころです。理屈で考えると、空洞を通り抜けているのは電子なので、電子に関する量である阻止能で換算するのが自然だと分かります(質量エネルギー吸収係数は光子に関する量です)。
防護量:等価線量と実効線量
ここまでの吸収線量は物理量でしたが、人体への影響を評価するには2段階の重みづけが必要です。
- 等価線量 H … 吸収線量に放射線加重係数を掛ける。同じ1 Gyでも、α線や中性子はX線より生物影響が大きいため(LETの話とつながります)
- 実効線量 E … 各臓器の等価線量に組織加重係数を掛けて全身分を合算する。同じ線量でも臓器によってリスクが違うため
どちらも単位はシーベルト(Sv)です。吸収線量のグレイ(Gy)とは意味が違うので、区別が重要です。
まとめ
- 照射線量は「空気中で光子が作る電荷」[C/kg]。X線・γ線専用
- カーマは二次荷電粒子に渡した運動エネルギー[Gy]。光子・中性子(間接電離放射線)に使える
- 吸収線量は実際に吸収されたエネルギー[Gy]。すべての放射線・すべての物質に使える基本の量
- W値(空気で約34 eV)で照射線量とカーマを換算。空気カーマ = 照射線量 × 34
- 電離箱の測定値は空洞内の空気の質量で決まる。温度が高い・気圧が低い=電離量は減るので、補正係数は1より大きくなる
- ブラッグ・グレイの空洞理論の換算は質量衝突阻止能の比(質量エネルギー吸収係数の比ではない)
- 等価線量は放射線の種類の重み、実効線量は臓器の重みまで加味した防護量[Sv]
これで放射線物理学シリーズは完結です。過去問での問われ方は、過去問解説の記事一覧や国家試験まとめから確認できます。