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放射線物理学

原子核と放射性壊変(壊変形式・半減期・放射平衡)

放射性核種は、不安定な原子核がより安定な形へ変わろうとして放射線を出す性質を持っています。この記事では、その変わり方(壊変形式)と、どれくらいの速さで減るか(半減期)、そして核医学の現場を支える放射平衡までを整理します。

前の2本(光子と物質の相互作用荷電粒子と中性子)は「放射線が物質に当たったあと」の話でした。今回は放射線が生まれる側の話です。

原子核の基本:質量数と原子番号

原子核は陽子中性子でできています。

  • 原子番号 Z … 陽子の数。元素の種類を決める
  • 質量数 A … 陽子+中性子の数(核子の総数)

原子核の半径は、核子がぎっしり詰まった球として次の経験式で表されます。

R=r0A1/3(r01.2 fm)R = r_0 A^{1/3} \qquad (r_0 \fallingdotseq 1.2\ \text{fm})

この式から、国家試験で問われる性質が導けます。

質量数Aとの関係
体積R3AR^3 \propto A質量数に比例
半径A1/3A^{1/3} に比例(比例ではない)
密度質量÷体積 A/A\propto A/A一定(どの原子核もほぼ同じ)
中性子過剰数重い核ほど増える(非線形)
核子1個あたりの結合エネルギー質量数60付近(鉄)で最大の山型

壊変形式:原子番号と質量数がどう変わるか

不安定な原子核が安定を目指して変化することを壊変(崩壊)といいます。5つの形式があり、それぞれ原子番号Zと質量数Aの変化の仕方が違います

壊変形式による原子番号と質量数の変化 壊変形式ごとの変化をまとめた図。アルファ壊変は原子番号が2減り質量数が4減る。ベータマイナス壊変は原子番号が1増え質量数は変わらない。ベータプラス壊変と軌道電子捕獲は原子番号が1減り質量数は変わらない。ガンマ壊変は原子番号も質量数も変わらない。質量数が変わるのはアルファ壊変だけである。 壊変形式 核の中で起きること 原子番号 Z 質量数 A α壊変 ヘリウム核が飛び出す 陽子2+中性子2が抜ける −2 −4 これだけ変わる β⁻壊変 電子が出る 中性子 → 陽子 +1 変化なし β⁺壊変 陽電子が出る 陽子 → 中性子 −1 変化なし 軌道電子捕獲 EC 電子を取り込み 陽子 → 中性子 −1 変化なし γ壊変 核異性体転移 余分なエネルギーを電磁波で捨てる 変化なし 変化なし 覚え方:質量数が変わるのは α壊変だけ 他は全部「質量数は変化なし」。Zの増減だけ押さえればよい
図1:壊変形式による原子番号Zと質量数Aの変化。質量数が変わるのはα壊変だけ。

理屈で追うと、丸暗記しなくても導けます。

  • α壊変 … ヘリウム原子核(陽子2+中性子2)が丸ごと飛び出す → Z−2、A−4
  • β⁻壊変 … 核内で中性子が陽子に変わり、電子が飛び出す → 陽子が1個増えるのでZ+1。核子の総数は変わらないのでAは不変
  • β⁺壊変 … 核内で陽子が中性子に変わり、陽電子が飛び出す → Z−1、Aは不変
  • 軌道電子捕獲(EC) … 核が軌道電子を取り込んで陽子を中性子に変える → β⁺と同じ結果でZ−1、Aは不変
  • γ壊変 … 励起状態の核が余分なエネルギーを電磁波で捨てるだけ。陽子も中性子も出入りしない → ZもAも不変

半減期:どれくらいの速さで減るか

放射性核種の数は、指数関数で減っていきます。もとの半分になるまでの時間が半減期 TT です。

A=A0(12)t/T=A0eλt,λ=ln2TA = A_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{t/T} = A_0 e^{-\lambda t}, \qquad \lambda = \frac{\ln 2}{T}

λ\lambda壊変定数で、「1個の原子核が1秒あたりに壊れる確率」を表します。

半減期と指数減衰 横軸が経過時間(半減期の何倍か)、縦軸が残っている放射能の割合のグラフ。半減期を1回過ぎるごとに50パーセント、25パーセント、12.5パーセント、6.25パーセントと半分ずつ減っていく。何回たってもゼロにはならず、指数関数的に減り続ける。 50% 25% 12.5% 0 1 2 3 4 5 経過時間(半減期の何倍か) 100 50 0 残っている放射能[%] 半減期が1回過ぎるごとに 100 → 50 → 25 → 12.5% 何回たってもゼロにはならない
図2:半減期と指数減衰。半減期を1回過ぎるごとに半分になり、ゼロには到達しない。

有効半減期:体の中では2つの理由で減る

体内に入った放射性医薬品は、2つの理由で減っていきます。

  • 物理的半減期 TpT_p … 核が壊変して減る
  • 生物学的半減期 TbT_b … 代謝・排泄で体外へ出て減る

実際に体内で減る速さが有効半減期 TeffT_{\text{eff}} です。「速さ(半減期の逆数)」を足し合わせると考えると導けます。

1Teff=1Tp+1TbTeff=TpTbTp+Tb\frac{1}{T_{\text{eff}}} = \frac{1}{T_p} + \frac{1}{T_b} \quad\Rightarrow\quad T_{\text{eff}} = \frac{T_p \cdot T_b}{T_p + T_b}

2つの減り方が重なるので、有効半減期は物理的・生物学的のどちらよりも必ず短くなります

放射平衡:親から娘が生まれ続ける

親核種が壊変して娘核種になり、その娘核種も放射性という場合があります。このとき、時間がたつと親と娘の放射能の比が一定になります。これが放射平衡です。

成立する条件は、親の半減期が娘より長いことです(逆だと親が先になくなってしまいます)。

放射平衡(Mo-99とTc-99m) 横軸が時間、縦軸が放射能のグラフ。親核種のモリブデン99は半減期66時間でゆるやかに減っていく。娘核種のテクネチウム99mは半減期6時間で、はじめゼロから急速に増え、約23時間で最大となったあと、親の減り方に沿って一定の比を保ちながら減っていく。この状態が過渡平衡である。 親:Mo-99(半減期66時間) 娘:Tc-99m (半減期6時間) 約23時間で最大 この先が「過渡平衡」 親と娘の放射能の比が一定 娘は親の減り方に沿って減る 親の壊変は止まっていない 0 24 48 72 経過時間[時間] 放射能 この仕組みでMo-99から必要なときにTc-99mを取り出すのがジェネレータ
図3:放射平衡(Mo-99とTc-99m)。娘は約23時間で最大になり、以後は親と一定の比を保ちながら減っていく。

放射平衡には2種類あります。

  • 過渡平衡 … 親の半減期が娘よりやや長いとき。娘は親の減り方に沿って減る。Mo-99 → Tc-99m(66時間 → 6時間)が代表例
  • 永続平衡 … 親の半減期が娘より極端に長いとき。親がほとんど減らないので、娘の放射能は一定に保たれる

この過渡平衡を利用したのが、核医学で使う 99Mo/99mTc ジェネレータです。半減期6時間の99mTcは作り置きできませんが、半減期66時間の99Moを置いておけば、必要なときに娘の99mTcを取り出せます(ミルキング)。取り出したあとも親から娘が生まれ続けるので、しばらくするとまた使えるようになります。

まとめ

  • 原子核の半径は A1/3A^{1/3} に比例。だから体積は質量数に比例し、密度はどの核でもほぼ一定
  • 質量数が変わるのはα壊変だけ(Z−2、A−4)。他はすべてA不変
  • β⁻はZ+1(中性子→陽子)、β⁺とECはZ−1(陽子→中性子)、γ壊変はZもAも不変
  • 放射能は指数関数で減り、半減期ごとに半分。ゼロにはならない
  • 有効半減期 = Tp·Tb/(Tp+Tb)。逆数の足し算なので、どちらよりも短くなる
  • 放射平衡は親と娘の放射能の比が一定になる状態。成立条件は親の半減期が娘より長いこと。両方とも減り続けている
  • 過渡平衡の実用例が 99Mo/99mTc ジェネレータ

過去問での問われ方は、過去問解説の記事一覧国家試験まとめから確認できます。

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