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超音波

超音波ドプラ法(カラー・パワー・パルス・連続波とエイリアシング)

Bモードで見えるのはです。しかし臨床で本当に知りたいのは、そこに血が流れているかどれくらいの速さかどちら向きかであることが少なくありません。

それを可能にするのがドプラ法です。原理はサイレンの音が変わるのと同じで、追加のハードウェアもほとんどいりません。同じプローブ、同じ超音波で、返ってきた音の周波数のずれを見るだけです。

そして国家試験では、ドプラ法は必ず出るのに、選択肢の作り方が決まっている分野でもあります。押さえるべきは、角度依存性4つの方法の使い分け、そしてエイリアシングの3つです。

ドプラ効果:動くものに当たると音の高さが変わる

ドプラ効果の原理プローブから送った超音波が赤血球に当たって返ってくるようすを3つ比べた図。赤血球が止まっているときは返ってくる波の間隔が送信時と変わらず、周波数も変わらない。赤血球がプローブに近づいてくるときは波が詰まり、返ってくる周波数が高くなる。遠ざかるときは波が伸びて周波数が低くなる。ドプラ偏移周波数は、2かけるf0かけるvかけるコサインθを音速cで割った値で表され、係数2が付くのは行きと帰りで2回ドプラ効果を受けるためである。動いているものに当たると、返ってくる音の高さが変わる救急車のサイレンと同じ。超音波では「動く赤血球」がサイレン役になる止まっているときプローブ送信赤血球止まっている受信周波数は変わらない波の間隔はそのまま近づいてくるときプローブ送信赤血球近づく受信周波数が高くなる波が詰まる遠ざかるときプローブ送信赤血球遠ざかる受信周波数が低くなる波が伸びるドプラ偏移周波数 fd = 2 × f₀ × v × cosθ ÷ c「2」が付くのは、行きと帰りで2回ドプラ効果を受けるから(反射体が動く音源にもなっている)
赤血球が近づけば波が詰まって周波数が上がり遠ざかれば波が伸びて下がる。式に2が付くのは、行きと帰りで2回ドプラ効果を受けるため。

救急車が近づくときサイレンが高く、通り過ぎると低く聞こえる——あれがドプラ効果です。超音波では、動く赤血球がサイレン役を務めます。

送った周波数を f0f_0、返ってきた周波数を frf_r とすると、その差をドプラ偏移周波数(ドプラシフト)fdf_d といいます。

fd=frf0=2f0vcosθcf_d = f_r - f_0 = \frac{2 f_0 v \cos\theta}{c}

速度について解くと、装置が実際に計算している式になります。

v=cfd2f0cosθv = \frac{c \cdot f_d}{2 f_0 \cos\theta}

vv は血流速度、cc は音速(1,530 m/s)、θ\thetaビームと血流のなす角です。

なぜ「2」が付くのか

ここは理屈で覚えたいところです。動く赤血球は、まず動きながら音を受け取る(1回目のドプラ効果)。次に、その赤血球自身が動く音源となって音を送り返す(2回目)。2回受けるから2倍になります。

fdf_d の大きさを実感しておくと役に立ちます。f0=5f_0 = 5 MHz、v=1v = 1 m/s、θ=0\theta = 0 とすると fdf_d はおよそ 6.5 kHz で、これは人の耳に聞こえる音の高さです。ドプラ検査で「シュー、シュー」という音が聞こえるのは、この偏移周波数をそのままスピーカーに出しているからです。

角度依存性:これが最大の落とし穴

ドプラ法の角度依存性左は血管に対してビームを当てる角度を3通り比べた図。血流方向とのなす角が20度のときコサインθは0.94でほぼ正確に測れる。60度のときは0.50で実務上の限界。90度すなわち直角のときは0になり、血液が流れていても速度が測れない。カラードプラで色が付かない原因の多くがこれである。右はコサインθのグラフ。0度から60度までは緩やかに減るが、60度を超えると急に落ち込む。傾きが急なところほど角度のわずかなずれが大きな速度の誤差になるため、実務では60度以下、できれば20度以下で当てる。ビームと血流の角度で、測れる速度が変わる式に cosθ が入っているため、当て方しだいで結果が変わってしまう血流θ=20°cos20° = 0.94◎ ほぼ正確θ=60°cos60° = 0.50△ 実務上の限界θ=90°cos90° = 0✗ 測れないビームが血流に沿うほど、よく測れる直角(90°)に当てると、流れていても速度はゼロカラードプラで「色が付かない」原因の多くがこれ015304560759000.51.060°を超えると急に落ち込むビームと血流のなす角 θ(度)傾きが急なところほど、角度のわずかなずれが大きな速度の誤差になるだから実務では 60° 以下、できれば 20° 以下で当てる
ビームが血流に沿うほどよく測れる直角(90°)ではゼロになり、流れていても測れない。60°を超えると cosθ が急に落ち込むため、角度のわずかな違いが大きな誤差になる。

式に cosθ\cos\theta が入っていることが、ドプラ法の性格をほとんど決めています。

θcosθどうなるか
(ビームが血流と平行)1.00最もよく測れる
30°0.87ほぼ問題なし
60°0.50実務上の限界
80°0.17誤差が大きく使えない
90°(直角)0流れていても速度ゼロ

直角に当てると、いくら流れていても測れません。カラードプラで「明らかに血管なのに色が付かない」ことがありますが、その多くはビームが血管に直交しているためです。プローブを少し傾けるか、ビームステアリングで角度を振れば色が付きます。

なぜ60度が境目なのか

cosθ\cos\theta のグラフを見ると、0〜60°では緩やかに減り、60°を超えると急に落ち込みます。傾きが急なところでは、角度の見積もりがわずかにずれただけで、速度が大きく変わってしまいます

たとえば実際が60°なのに58°と設定すると誤差は数%ですが、実際が80°なのに78°と設定すると誤差は10%を超えます。だから60°以下、できれば20°以下で当てるのが原則です。

なおパワードプラ法だけは、この角度依存性が小さいという特徴があります(速度を求めないため)。

4つのドプラ法:何が分かって、何が分からないか

4つのドプラ法の比較4つのドプラ法を比べた図。カラードプラ法は断層像に速度と向きを色で重ねて表示し、近づく血流が赤、遠ざかる血流が青になるが、波形は出せず折り返しが起こる。パワードプラ法は信号の強さを色にしたもので、感度が高く低速血流に強く、角度依存性が小さく折り返しも起こらないが、速度も向きも分からず体動に弱い。パルスドプラ法は距離ゲートを置いた1点の速度波形を縦軸が流速、横軸が時間のグラフとして描けるが、折り返しが起こる。連続波ドプラ法はビーム上のすべての深さを拾うため深さを特定できないが、どんなに速い血流でも折り返さない。血流の波形を記録できるのはパルスドプラ法と連続波ドプラ法の2つだけである。ドプラ法は4種類。何が分かって、何が分からないかカラードプラ法近づく=赤遠ざかる=青○ 速度と向きが色で分かる○ 断層像に重ねて見られる✗ 波形(数値)は出せない✗ 折り返しが起こる赤=近づく/青=遠ざかるパワードプラ法細い血管まで写る○ 感度が高く低速血流に強い○ 角度依存性が小さい○ 折り返しが起こらない✗ 速度も向きも分からない✗ 体動に弱いパルスドプラ法(PW)この1点だけ縦軸=流速、横軸=時間○ 深さを指定して1点だけ測れる✗ 折り返しが起こる(速い血流が苦手)連続波ドプラ法(CW)線上ぜんぶ縦軸=流速、横軸=時間○ どんなに速くても折り返さない✗ 深さを特定できない血流の「波形」を記録できるのはパルスドプラ法と連続波ドプラ法の2つだけ
4つの方法はできることが違う波形(数値)を記録できるのはパルスと連続波の2つだけ折り返さないのはパワーと連続波の2つだけ
カラードプラパワードプラパルスドプラ(PW)連続波ドプラ(CW)
何を表示するか速度と向きを色で信号の強さを色で1点の速度波形線上の速度波形
断層像に重ねる○(ゲートを置く)○(線を置く)
速度の値色でおおまか✗ 分からない
向き(赤/青)✗ 分からない
深さの特定○(できる)✗ できない
折り返し起こる起こらない起こる起こらない
角度依存性あり小さいありあり
得意なこと血流の分布を一目で低速・微細な血流波形の定量評価高速血流(弁狭窄)

カラードプラ法 … 断層像に速度を色で重ねます。赤が近づく向き、青が遠ざかる向き(BART:Blue Away, Red Toward)。血流の分布を一目で把握できますが、波形は描けません

パワードプラ法 … ドプラ信号の強さ(パワー)だけを色にしたものです。速度も向きも分からないかわりに、感度が高く、角度依存性が小さく、折り返しも起こりません。腫瘍内部の細かい血流や、腎皮質のような低速の血流を見るのに向きます。弱点は体動に弱いことです。

パルスドプラ法(PW) … 短いパルスを一定間隔で送り、戻ってくるタイミングで距離を選別します。だから深さを指定した1点(サンプルボリューム)の速度波形が得られます。弱点は折り返しです。

連続波ドプラ法(CW)送信専用と受信専用の素子に分けて、送りっぱなし・受けっぱなしにします。タイミングで距離を分けられないので深さが特定できませんが、そのかわりどんなに速い血流でも折り返しません。大動脈弁狭窄のような高速のジェットの計測には必須です。

組織ドプラ法 … 血流ではなく心筋そのものの動きを見る方法です。心筋は血流より遅くて信号が強いので、フィルタの設定を逆にして拾います。

FFT波形(スペクトラム)の読み方

パルスドプラと連続波ドプラで得られるのが、FFT波形(ドプラスペクトラム)です。読み方には決まりがあります。

  • 縦軸は流速横軸は時間(この2つを入れ替える選択肢が定番の引っかけです)
  • ベースラインより上がプローブに近づく向き、下が遠ざかる向き
  • 明るさは、その速度で流れている血球のを表す
  • 波形の幅(帯の太さ) はスペクトル幅。流速がそろっていれば細く、乱れていれば太くなる

サンプルボリューム(サンプリングボリューム) はパルスドプラで「どこを測るか」を決める窓です。大きくすると、流速の違う血流をまとめて拾ってしまい、波形の幅が広がります。細い血管の中心だけを測りたいときは小さく設定します。

エイリアシング:速すぎる血流は折り返す

エイリアシング(折り返し)パルスドプラ法の速度波形を2つ比べた図。左は血流速度が速度レンジの中に収まっている場合で、山の高さがそのまま流速を表し波形が読める。右は速度がナイキスト限界を超えた場合で、山の先が切れて、反対向きの速度として画面の下から生えてくる。ピンクで示した部分が回り込んだ山の先である。これがエイリアシングすなわち折り返しである。ナイキスト限界はパルス繰り返し周波数PRFの半分で、深いところを見るほどPRFを上げられないため、深部の速い血流ほど折り返しやすい。連続波ドプラ法だけはこの制限を受けない。速すぎる血流は「折り返して」しまうナイキスト限界(=PRF の半分)を超えた分は、反対向きの速度として表示される速度レンジの中に収まっている0限界限界横軸=時間 縦軸=流速(上が近づく向き)波形がそのまま読める山の高さがそのまま流速を表す限界を超えている(エイリアシング)0限界限界横軸=時間 縦軸=流速(上が近づく向き)山の先が切れて、下から生えてくるピンクの部分が「回り込んだ」山の先ナイキスト限界 = PRF ÷ 2  深いところを見るほど PRF を上げられない= 深部の速い血流ほど折り返しやすい。連続波ドプラ法だけはこの制限を受けない
速度がナイキスト限界を超えると、山の先が切れて反対向きの速度として下から生えてきますナイキスト限界はPRFの半分で、深いところほどPRFを上げられないため、深部の速い血流ほど起こりやすくなります。

パルスドプラはとびとびに(パルスで)血流をのぞいています。動画のコマ数が足りないと、車のホイールが逆回転して見えるのと同じことが起こります。これがエイリアシング(折り返し) です。

正しく測れる速度の上限をナイキスト限界といい、

fd(max)=PRF2f_{d(\max)} = \frac{\text{PRF}}{2}

つまりパルス繰り返し周波数(PRF)の半分です。これを超えると、山の先が切れて反対向きの速度として画面の反対側から生えてきます

なぜ深いところで起こりやすいのか

ここが理解の山場です。パルスドプラは、1回パルスを出したら、そのパルスが目的の深さから返ってくるまで次を出せません

PRFmax=c2×深さ\text{PRF}_{\max} = \frac{c}{2 \times \text{深さ}}

深いところを見るほどPRFを上げられない → ナイキスト限界が下がる → 折り返しやすい。「深部の速い血流」がパルスドプラの最も苦手なものだ、というのはこの式から出てきます。

折り返したときの対処

  1. 速度レンジ(PRF)を上げる … 最も直接的。ただし表示深度の制限がある
  2. ベースラインを下げる … 上向きの表示範囲を広げる。手軽で効果的
  3. 周波数の低いプローブに換えるfdf_df0f_0 に比例するので、f0f_0 を下げれば偏移も小さくなる
  4. 入射角を血流に近づけるcosθ\cos\theta が大きくなると偏移は増えるので、これは逆効果。角度を大きくすれば偏移は減るが、誤差も増える
  5. 連続波ドプラに切り替える … 根本的な解決。深さは分からなくなる

なおパワードプラは速度を求めていないので、そもそも折り返しません。ここは試験で狙われます。

臨床での使い分け

やりたいこと選ぶ方法
血流があるかないかを一目で見たいカラードプラ
腫瘍の中の細かい血流を見たいパワードプラ
頸動脈の収縮期最高血流速度を測りたいパルスドプラ
大動脈弁狭窄の高速ジェットを測りたい連続波ドプラ
心筋の壁運動を評価したい組織ドプラ

そのほか実務で効いてくる設定を挙げておきます。

  • 壁フィルタ(ウォールフィルタ) … 血管壁や組織の遅い動きによる強い信号を除くフィルタ。上げすぎると遅い血流まで消える
  • カラーゲイン … 上げすぎると色のノイズが画面全体に散らばる。血管の外に色が出たら上げすぎ
  • カラーROIを小さくする … 色を付ける範囲を絞るとフレームレートが上がる

まとめ

  • ドプラ効果は、動く赤血球で反射した音の周波数がずれる現象。fd=2f0vcosθ/cf_d = 2f_0 v\cos\theta / c
  • 式の2は、行きと帰りで2回ドプラ効果を受けるため
  • cosθ が入る=角度依存性0°で最大、90°(直角)ではゼロ。実務は60°以下、できれば20°以下
  • カラードプラで色が付かないときは、ビームが血管に直交していないかを疑う
  • カラードプラ=速度と向きを色で(赤が近づく・青が遠ざかる)。折り返しあり
  • パワードプラ=信号の強さだけ。速度も向きも分からないが、感度が高く・角度依存性が小さく・折り返さない
  • パルスドプラ(PW)=深さを指定した1点の波形。折り返しあり
  • 連続波ドプラ(CW)=深さは特定できないが、どんなに速くても折り返さない
  • 波形を記録できるのはPWとCWの2つだけ折り返さないのはパワーとCWの2つだけ
  • FFT波形は縦軸が流速、横軸が時間サンプルボリュームを大きくすると波形の幅が広がる
  • ナイキスト限界 = PRF ÷ 2深いところほどPRFを上げられないので、深部の速い血流が最も苦手
  • 折り返しの対処は、速度レンジを上げる・ベースラインを下げる・低い周波数にする・連続波ドプラに替える

次回は超音波シリーズの最終回、アーチファクトと安全性です。多重反射、音響陰影、後方エコー増強、鏡面反射、サイドローブ——毎年のように画像問題で問われる分野を、どこに・どんな形で出るかで整理します。

過去問での問われ方は、過去問解説の記事一覧国家試験まとめから確認できます。

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