超音波ドプラ法(カラー・パワー・パルス・連続波とエイリアシング)
Bモードで見えるのは形です。しかし臨床で本当に知りたいのは、そこに血が流れているか、どれくらいの速さか、どちら向きかであることが少なくありません。
それを可能にするのがドプラ法です。原理はサイレンの音が変わるのと同じで、追加のハードウェアもほとんどいりません。同じプローブ、同じ超音波で、返ってきた音の周波数のずれを見るだけです。
そして国家試験では、ドプラ法は必ず出るのに、選択肢の作り方が決まっている分野でもあります。押さえるべきは、角度依存性と4つの方法の使い分け、そしてエイリアシングの3つです。
ドプラ効果:動くものに当たると音の高さが変わる
救急車が近づくときサイレンが高く、通り過ぎると低く聞こえる——あれがドプラ効果です。超音波では、動く赤血球がサイレン役を務めます。
送った周波数を 、返ってきた周波数を とすると、その差をドプラ偏移周波数(ドプラシフト) といいます。
速度について解くと、装置が実際に計算している式になります。
は血流速度、 は音速(1,530 m/s)、 はビームと血流のなす角です。
なぜ「2」が付くのか
ここは理屈で覚えたいところです。動く赤血球は、まず動きながら音を受け取る(1回目のドプラ効果)。次に、その赤血球自身が動く音源となって音を送り返す(2回目)。2回受けるから2倍になります。
の大きさを実感しておくと役に立ちます。 MHz、 m/s、 とすると はおよそ 6.5 kHz で、これは人の耳に聞こえる音の高さです。ドプラ検査で「シュー、シュー」という音が聞こえるのは、この偏移周波数をそのままスピーカーに出しているからです。
角度依存性:これが最大の落とし穴
式に が入っていることが、ドプラ法の性格をほとんど決めています。
| θ | cosθ | どうなるか |
|---|---|---|
| 0°(ビームが血流と平行) | 1.00 | 最もよく測れる |
| 30° | 0.87 | ほぼ問題なし |
| 60° | 0.50 | 実務上の限界 |
| 80° | 0.17 | 誤差が大きく使えない |
| 90°(直角) | 0 | 流れていても速度ゼロ |
直角に当てると、いくら流れていても測れません。カラードプラで「明らかに血管なのに色が付かない」ことがありますが、その多くはビームが血管に直交しているためです。プローブを少し傾けるか、ビームステアリングで角度を振れば色が付きます。
なぜ60度が境目なのか
のグラフを見ると、0〜60°では緩やかに減り、60°を超えると急に落ち込みます。傾きが急なところでは、角度の見積もりがわずかにずれただけで、速度が大きく変わってしまいます。
たとえば実際が60°なのに58°と設定すると誤差は数%ですが、実際が80°なのに78°と設定すると誤差は10%を超えます。だから60°以下、できれば20°以下で当てるのが原則です。
なおパワードプラ法だけは、この角度依存性が小さいという特徴があります(速度を求めないため)。
4つのドプラ法:何が分かって、何が分からないか
| カラードプラ | パワードプラ | パルスドプラ(PW) | 連続波ドプラ(CW) | |
|---|---|---|---|---|
| 何を表示するか | 速度と向きを色で | 信号の強さを色で | 1点の速度波形 | 線上の速度波形 |
| 断層像に重ねる | ○ | ○ | ○(ゲートを置く) | ○(線を置く) |
| 速度の値 | 色でおおまか | ✗ 分からない | ○ | ○ |
| 向き | ○(赤/青) | ✗ 分からない | ○ | ○ |
| 深さの特定 | ○ | ○ | ○(できる) | ✗ できない |
| 折り返し | 起こる | 起こらない | 起こる | 起こらない |
| 角度依存性 | あり | 小さい | あり | あり |
| 得意なこと | 血流の分布を一目で | 低速・微細な血流 | 波形の定量評価 | 高速血流(弁狭窄) |
カラードプラ法 … 断層像に速度を色で重ねます。赤が近づく向き、青が遠ざかる向き(BART:Blue Away, Red Toward)。血流の分布を一目で把握できますが、波形は描けません。
パワードプラ法 … ドプラ信号の強さ(パワー)だけを色にしたものです。速度も向きも分からないかわりに、感度が高く、角度依存性が小さく、折り返しも起こりません。腫瘍内部の細かい血流や、腎皮質のような低速の血流を見るのに向きます。弱点は体動に弱いことです。
パルスドプラ法(PW) … 短いパルスを一定間隔で送り、戻ってくるタイミングで距離を選別します。だから深さを指定した1点(サンプルボリューム)の速度波形が得られます。弱点は折り返しです。
連続波ドプラ法(CW) … 送信専用と受信専用の素子に分けて、送りっぱなし・受けっぱなしにします。タイミングで距離を分けられないので深さが特定できませんが、そのかわりどんなに速い血流でも折り返しません。大動脈弁狭窄のような高速のジェットの計測には必須です。
組織ドプラ法 … 血流ではなく心筋そのものの動きを見る方法です。心筋は血流より遅くて信号が強いので、フィルタの設定を逆にして拾います。
FFT波形(スペクトラム)の読み方
パルスドプラと連続波ドプラで得られるのが、FFT波形(ドプラスペクトラム)です。読み方には決まりがあります。
- 縦軸は流速、横軸は時間(この2つを入れ替える選択肢が定番の引っかけです)
- ベースラインより上がプローブに近づく向き、下が遠ざかる向き
- 明るさは、その速度で流れている血球の量を表す
- 波形の幅(帯の太さ) はスペクトル幅。流速がそろっていれば細く、乱れていれば太くなる
サンプルボリューム(サンプリングボリューム) はパルスドプラで「どこを測るか」を決める窓です。大きくすると、流速の違う血流をまとめて拾ってしまい、波形の幅が広がります。細い血管の中心だけを測りたいときは小さく設定します。
エイリアシング:速すぎる血流は折り返す
パルスドプラはとびとびに(パルスで)血流をのぞいています。動画のコマ数が足りないと、車のホイールが逆回転して見えるのと同じことが起こります。これがエイリアシング(折り返し) です。
正しく測れる速度の上限をナイキスト限界といい、
つまりパルス繰り返し周波数(PRF)の半分です。これを超えると、山の先が切れて反対向きの速度として画面の反対側から生えてきます。
なぜ深いところで起こりやすいのか
ここが理解の山場です。パルスドプラは、1回パルスを出したら、そのパルスが目的の深さから返ってくるまで次を出せません。
深いところを見るほどPRFを上げられない → ナイキスト限界が下がる → 折り返しやすい。「深部の速い血流」がパルスドプラの最も苦手なものだ、というのはこの式から出てきます。
折り返したときの対処
- 速度レンジ(PRF)を上げる … 最も直接的。ただし表示深度の制限がある
- ベースラインを下げる … 上向きの表示範囲を広げる。手軽で効果的
- 周波数の低いプローブに換える … は に比例するので、 を下げれば偏移も小さくなる
- 入射角を血流に近づける … が大きくなると偏移は増えるので、これは逆効果。角度を大きくすれば偏移は減るが、誤差も増える
- 連続波ドプラに切り替える … 根本的な解決。深さは分からなくなる
なおパワードプラは速度を求めていないので、そもそも折り返しません。ここは試験で狙われます。
臨床での使い分け
| やりたいこと | 選ぶ方法 |
|---|---|
| 血流があるかないかを一目で見たい | カラードプラ |
| 腫瘍の中の細かい血流を見たい | パワードプラ |
| 頸動脈の収縮期最高血流速度を測りたい | パルスドプラ |
| 大動脈弁狭窄の高速ジェットを測りたい | 連続波ドプラ |
| 心筋の壁運動を評価したい | 組織ドプラ |
そのほか実務で効いてくる設定を挙げておきます。
- 壁フィルタ(ウォールフィルタ) … 血管壁や組織の遅い動きによる強い信号を除くフィルタ。上げすぎると遅い血流まで消える
- カラーゲイン … 上げすぎると色のノイズが画面全体に散らばる。血管の外に色が出たら上げすぎ
- カラーROIを小さくする … 色を付ける範囲を絞るとフレームレートが上がる
まとめ
- ドプラ効果は、動く赤血球で反射した音の周波数がずれる現象。
- 式の2は、行きと帰りで2回ドプラ効果を受けるため
- cosθ が入る=角度依存性。0°で最大、90°(直角)ではゼロ。実務は60°以下、できれば20°以下
- カラードプラで色が付かないときは、ビームが血管に直交していないかを疑う
- カラードプラ=速度と向きを色で(赤が近づく・青が遠ざかる)。折り返しあり
- パワードプラ=信号の強さだけ。速度も向きも分からないが、感度が高く・角度依存性が小さく・折り返さない
- パルスドプラ(PW)=深さを指定した1点の波形。折り返しあり
- 連続波ドプラ(CW)=深さは特定できないが、どんなに速くても折り返さない
- 波形を記録できるのはPWとCWの2つだけ。折り返さないのはパワーとCWの2つだけ
- FFT波形は縦軸が流速、横軸が時間。サンプルボリュームを大きくすると波形の幅が広がる
- ナイキスト限界 = PRF ÷ 2。深いところほどPRFを上げられないので、深部の速い血流が最も苦手
- 折り返しの対処は、速度レンジを上げる・ベースラインを下げる・低い周波数にする・連続波ドプラに替える
次回は超音波シリーズの最終回、アーチファクトと安全性です。多重反射、音響陰影、後方エコー増強、鏡面反射、サイドローブ——毎年のように画像問題で問われる分野を、どこに・どんな形で出るかで整理します。
過去問での問われ方は、過去問解説の記事一覧や国家試験まとめから確認できます。