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放射線生物学

放射線が細胞を殺すしくみ(DNA損傷・細胞死・細胞周期)

放射線を当てると、なぜ細胞は死ぬのか——。この問いに答えられると、放射線治療でなぜ2 Gyずつ何十回も分けて当てるのかなぜ骨髄や腸の粘膜から先に障害が出るのかなぜ前立腺癌だけ1回線量を大きくできるのかが、すべて一本の線でつながります。

放射線生物学は暗記科目に見えますが、実際は「DNAの二本鎖が切れる」という一点から枝分かれしているだけです。この記事では、そのおおもとから順にたどっていきます。

標的はDNA

細胞にはタンパク質も脂質も膜もありますが、放射線障害の主な標的はDNAです。理由は単純で、DNAだけが「1個しかない」 からです。

酵素タンパク質が1分子壊れても、同じものが何千個もあるので細胞は困りません。ところがDNAは、その細胞にとって設計図の原本が1組しかない。ここが壊れると代わりがききません。

どれくらい効率が悪い攻撃なのかを見ておきましょう。細胞に 1 Gy を当てたときに起こることは、おおよそ次のとおりです。

損傷の種類1 Gy あたりの数
塩基損傷約 1,000〜2,000
一本鎖切断(SSB)約 1,000
二本鎖切断(DSB)約 40
DNA-タンパク質架橋約 150

一本鎖切断は二本鎖切断の25倍も起こっています。それでも細胞を殺すのは、ほぼ二本鎖切断のほうです。この「数は少ないのに効く」理由が、この記事の一番の山場になります。

直接作用と間接作用

放射線がDNAにたどり着く道すじは2つあります。

直接作用と間接作用 放射線がDNAを傷つける2つの経路を示した図。左の直接作用では、放射線がDNAに直接当たって電離を起こす。右の間接作用では、放射線がまず水分子を電離し、生じたヒドロキシルラジカルがDNAを攻撃する。人体は約70パーセントが水なので、X線やガンマ線では間接作用がおよそ3分の2を占める。アルファ線や中性子線のような高LET放射線では直接作用の割合が高くなる。 放射線がDNAを傷つける2つの道すじ 直接作用 放射線がDNAそのものを電離する 放射線 DNA 間接作用 まず水を電離し、ラジカルが襲う 放射線 H₂O •OH ヒドロキシルラジカル DNA X線・γ線・β線は間接作用が約3分の2 / α線・中性子線は直接作用の割合が高い
人体の約70%は水なので、X線やγ線では放射線が水に当たる確率のほうがずっと高い。生じたヒドロキシルラジカルがDNAを攻撃する経路が間接作用で、全体の約2/3を占める。

直接作用は、放射線がDNA分子そのものを電離して壊す経路です。

間接作用は、放射線がまわりの水分子を電離し、生じたフリーラジカルがDNAを化学的に攻撃する経路です。水が電離すると次のような反応が起こります。

H2O 放射線 H2O++e\mathrm{H_2O} \xrightarrow{\ \text{放射線}\ } \mathrm{H_2O^+} + e^- H2O++H2OH3O++OH\mathrm{H_2O^+} + \mathrm{H_2O} \rightarrow \mathrm{H_3O^+} + \bullet\mathrm{OH}

生じた •OH(ヒドロキシルラジカル) は電子が1個足りない不安定な分子で、手当たりしだいに近くの分子から電子を奪います。DNA損傷の主犯はこの •OH です。

人体は約70%が水なので、X線やγ線が飛び込んだとき、DNAに当たるより水に当たる確率のほうが圧倒的に高い。その結果、X線・γ線・β線では間接作用が約2/3を占めます。

逆に、α線や中性子線のように飛跡に沿って密に電離する放射線では、DNAの近くで大量の電離が集中するため、直接作用の割合が高くなります

間接作用がここまで大きいということは、ラジカルの動きを邪魔すれば影響を減らせるということでもあります。実際、システインなどの含硫化合物(ラジカル捕捉剤)を投与しておくと放射線障害は軽くなりますし、逆に酸素があるとラジカルによる損傷が固定されて元に戻りにくくなります。これが酸素効果の正体です。

DNA損傷の種類と、修復できるかどうか

損傷の重さを分けるのは、たったひとつの条件です。正しい情報の写しが残っているかどうか

損傷何が起きたか修復のしやすさ
塩基損傷塩基が化学変化した容易(塩基除去修復)
塩基の遊離塩基が外れて穴があいた容易(相補鎖が鋳型になる)
一本鎖切断(SSB)片方の鎖だけ切れた容易・ほぼ完全(もう片方が鋳型)
二本鎖切断(DSB)両方の鎖が切れた難しい・誤りやすい
架橋DNA同士やDNA-タンパク質が結合難しいが頻度は低い

一本鎖切断は、切れていない側の鎖をコピー元にすればいいので、数分のうちにほぼ完全に直ります。数が多くても致死につながらないのはこのためです。

問題は二本鎖切断です。両方切れているので鋳型がありません。細胞はやむを得ず、次の2つの方法で対処します。

① 相同組換え修復(HR) … 同じ配列をもつ姉妹染色分体をコピー元にする、正確な修復。ただし姉妹染色分体が存在する S期後半〜G2期でしか使えません。

② 非相同末端結合(NHEJ) … 切れた端どうしをとりあえずつなぐ方法。いつでも使えますが、塩基が抜けたり別の染色体の断端とつながったりする誤りやすい修復です。

ヒトの細胞では、多くの時期でNHEJが主役になります。つまり二本鎖切断は「直る」というより「つじつまを合わせる」 しかなく、そこで生じたつなぎ間違いが次に効いてきます。

誤修復のツケ:染色体異常

NHEJでつなぎ間違えると、染色体の形そのものがおかしくなります。代表的なのが次の2つです。

  • 二動原体染色体(dicentric) … 別々の染色体の断片がつながり、動原体が2つある染色体ができる
  • 環状染色体(ring) … 1本の染色体の両端がつながって輪になる

どちらも分裂のときに致命的です。動原体が2つあると紡錘糸に両側から引っ張られて染色体がちぎれ、娘細胞に正しい遺伝情報が渡りません。

この二動原体染色体は、被ばく線量の推定にも使われます。リンパ球を培養して分裂中期の染色体を数え、二動原体の出現頻度から線量を逆算する方法で、生物学的線量評価と呼ばれます。線量計を着けていなかった人の被ばく線量を推定できる、実用的な手法です。

細胞死には2つの型がある

「細胞が死ぬ」といっても、放射線の場合は2通りあります。

分裂死(増殖死)間期死
いつ死ぬか数回分裂したあと分裂せずにその場で
必要な線量数 Gy数十〜100 Gy以上(例外あり)
原因染色体異常で分裂できないアポトーシスなど
どの細胞でほとんどの細胞リンパ球・生殖細胞は低線量でも

放射線治療で問題にしているのは、ほぼ分裂死のほうです。ここで大事なのは、照射直後に細胞が消えるわけではないという点。数回は分裂できてしまい、その過程で染色体を正しく分配できずに脱落していきます。

だから効果が見えるまでに時間がかかるのです。腫瘍がすぐ小さくならなくても治療が効いていないとは限らない、という臨床的な理解にもつながります。

一方の間期死は例外が重要です。リンパ球は数 Gy でも間期死を起こします。急性被ばくで真っ先にリンパ球が減るのは、この性質のためです。

細胞生存曲線とLQモデル

放射線生物学の中心にあるグラフが細胞生存曲線です。横軸に線量、縦軸に生存率を対数目盛でとります。

細胞生存曲線の「肩」の正体 縦軸が対数目盛の生存率、横軸が線量のグラフ。もしアルファ成分だけなら生存率はまっすぐな直線で下がるはずだが、実際の細胞生存曲線はその直線からだんだん下へ離れていく。この開きが肩と呼ばれる部分で、ベータ成分にあたる。分割照射で修復できるぶんに相当する。 「肩」の正体はβ成分 α成分だけの直線から、どれだけ離れるか 10.10.010.00102468線量(Gy)生存率(対数目盛) αだけなら直線 この開きが「肩」=β成分 =分割すれば修復できるぶん
もしα成分だけなら、生存率はまっすぐな直線で下がるはず。実際の曲線がそこから離れていくこの開きが「肩」=β成分で、分割すれば修復できるぶんにあたる。

まず、なぜ縦軸が対数なのかを押さえてください。放射線が完全にランダムに、1回当たれば1個死ぬという単純な殺し方をするなら、生存率は指数関数的に減ります。指数関数は対数目盛にするとまっすぐな直線になるので、グラフは直線になるはずです。

ところが実際の哺乳類細胞の曲線は、その直線からだんだん下へ離れていきます(上の図)。低線量ではほぼ直線に沿っているのに、線量が増えるほど落ち方が急になる。この直線からのずれが「肩(ショルダー)」と呼ばれる部分です。

肩があるということは、低線量では殺し損ねているということ。言いかえれば、細胞に修復する余力があることを意味します。

この形を式にしたのが LQモデル(直線二次曲線モデル) です。

S=eαDβD2S = e^{-\alpha D - \beta D^{2}}
  • α成分αD-\alpha D)… 線量に比例する殺傷。1本の飛跡が両方の鎖を同時に切るイメージ。修復のすきがなく、低線量側の傾きを作る
  • β成分βD2-\beta D^{2})… 線量の2乗に比例する殺傷。別々の飛跡による損傷が2つ重なって致命傷になるイメージ。線量が増えるほど急に効き、曲線の「肩」を作る

なぜβ成分が2乗なのかは、確率で考えると腑に落ちます。2つの独立な出来事が同じ場所で重なる確率は、それぞれの確率の掛け算なので、線量の2乗に比例するのです。

そして決定的に重要なのは、β成分は時間をかければ修復されるという点です。1回に大線量を当てるとβ成分が効いてしまいますが、小分けにすれば損傷どうしが出会う前に修復できる。これが分割照射が成り立つ理由そのものです。

α/β比が組織の性格を決める

αとβの比 α/β は、「その組織が1回線量の大きさにどれだけ敏感か」を表す指標です。単位はGyで、αとβの寄与が等しくなる線量という意味を持ちます。

α/β組織・腫瘍の例性格
大きい(約10 Gy)早期反応組織(骨髄・粘膜・皮膚)、多くの腫瘍肩が小さい。1回線量を変えても影響が小さい
小さい(約2〜3 Gy)晩期反応組織(脊髄・筋肉・皮下組織・腎)、前立腺癌・乳癌肩が大きい。1回線量を下げると大きく守られる

下の図が、まさにこの違いを描いたものです。α/β=2の晩期反応組織は最初がゆるやかで、1回2 Gyの時点では67%が生き残るのに対し、α/β=10の腫瘍は最初から急に下がり、同じ2 Gyで43%まで減っています

α/β比の違いによる生存曲線の形 縦軸が対数目盛の生存率、横軸が線量のグラフ。アルファ・ベータ比が10の腫瘍や早期反応組織の曲線は最初から急に下がり、1回2グレイの時点で43パーセントが生存する。アルファ・ベータ比が2の晩期反応組織の曲線は最初がゆるやかで、同じ2グレイでも67パーセントが生存する。1回線量を小さくすると晩期反応組織のほうが選択的に守られることを示している。 α/βが違うと形が変わる 1回2 Gyで、どちらが多く生き残るか 10.10.010.00102468線量(Gy)生存率(対数目盛) 1回2 Gy 腫瘍・早期(α/β=10)2 Gyで43% 晩期反応(α/β=2)2 Gyで67%
α/βが小さいほど肩が大きいので、低い1回線量では晩期反応組織のほうが多く生き残る。1回2 Gyの通常分割が晩期障害だけを選択的に避けられるのは、この差を使っているから。

ここから、放射線治療の設計思想がそのまま読み取れます。

1回線量を2 Gy前後に抑えて回数を増やすと、α/βの小さい晩期反応組織が大きく守られ、α/βの大きい腫瘍と早期反応組織はあまり守られない。つまり腫瘍を叩きながら、晩期障害だけを避けられるわけです。通常分割が1回2 Gyである根拠がここにあります。

逆に、前立腺癌のようにα/βが小さい腫瘍(約1.5 Gy)では、話が反転します。腫瘍のほうが周囲の直腸や膀胱よりもα/βが小さいので、1回線量を大きくしたほうが腫瘍に有利になる。前立腺癌で寡分割照射が標準的な選択肢になっているのは、この理屈によります。

細胞周期による感受性の差

同じ細胞でも、細胞周期のどこにいるかで放射線感受性は数倍変わります。

細胞周期の位置と放射線感受性 細胞周期をG1期、S期、G2期、M期の帯で横に並べ、その上に放射線感受性の高さを曲線で示した図。感受性はM期で最も高く、G2期後半も高い。S期の後半で最も低くなる。G1期は中程度である。G1期は約11時間、S期は約8時間、G2期は約4時間、M期は約1時間。 細胞周期の位置と放射線感受性 高い 低い 放射線感受性 G1SG2M 約11時間約8時間約4時間約1時間 最大 最小(S期後半) 分裂しない細胞はG1期から外れてG0期にとどまる(感受性は低い)
感受性が最も高いのはM期、次いでG2期後半。最も抵抗性なのはS期後半。DNAを複製し終えた直後で、相同組換え修復の鋳型がそろっているためと説明される。

順に並べると、M期>G2期後半>G1期>S期後半。最も強いのがM期、最も弱いのがS期後半です。

M期が最も感受性が高いのは、染色体が凝縮していて損傷が修復されにくく、しかも直後に分裂が控えているためです。傷を抱えたまま分裂に突入するので、そのまま脱落します。

S期後半が最も抵抗性なのは、DNAの複製が終わって姉妹染色分体がそろっているから。前に触れた相同組換え修復(HR) が使える時期で、正確な修復ができます。

なお、温熱療法(ハイパーサーミア)が放射線と併用される理由も、この図から説明できます。熱が最もよく効くのはS期、つまり放射線が最も苦手とする時期です。低酸素・低pHの細胞に効く点も放射線と正反対で、両者はきれいに補い合います(第74回 午後 問68)。

ベルゴニー・トリボンドーの法則

個々の細胞ではなく、組織の感受性を大づかみにするのがこの法則です。次の3条件を満たす細胞ほど感受性が高い、というもの。

  1. 細胞分裂が盛んなもの
  2. 将来の分裂回数が多いもの(=未分化なもの)
  3. 形態と機能が未分化なもの

この物差しを当てると、組織の順位がそのまま出てきます。

感受性組織
高いリンパ組織・骨髄・生殖腺・腸の陰窩・水晶体上皮・胎児
中程度皮膚・血管内皮・唾液腺・毛のう
低い神経・筋肉・骨・軟骨

神経細胞と筋細胞が最も抵抗性なのは、もう分裂しない終末分化細胞だからです。逆に胎児が極端に高感受性なのは、3条件をすべて満たすためです。

ただし例外も問われます。リンパ球は分裂が盛んなわけではないのに、極めて高感受性です。これは分裂死ではなく間期死(アポトーシス) を起こすためで、法則の枠外にあります。

分割照射を支える「4つのR」

最後に、ここまでの話が臨床でどう使われているかをまとめておきます。分割照射の効果は、4つのRで説明されます。

R内容誰に有利か
Repair(回復)分割の合間に亜致死損傷(SLD)が修復される正常組織に有利(特に晩期反応組織)
Redistribution(再分布)抵抗性のS期にいた細胞が、次の照射までに感受性の高い時期へ移動する腫瘍に不利=治療に有利
Reoxygenation(再酸素化)腫瘍が縮んで、低酸素だった細胞に酸素が届くようになる腫瘍に不利=治療に有利
Repopulation(再増殖)治療期間中に生き残った細胞が増える腫瘍に有利=治療に不利

前の3つは分割照射の利点ですが、再増殖だけは不利に働きます。だから治療期間をだらだら延ばしてはいけません。頭頸部癌などで加速過分割照射(1日2回照射して総治療期間を短縮する)が使われるのは、この再増殖を振り切るためです。

まとめ

  • 放射線障害の主な標的はDNA。原本が1組しかないため代わりがきかない
  • 直接作用(DNAを直接電離)と間接作用(水→•OH ラジカル)があり、X線・γ線では間接作用が約2/3。α線・中性子線は直接作用の割合が高い
  • 一本鎖切断は1 Gyで約1,000個起こるが鋳型が残るのでほぼ完全に直る。二本鎖切断は約40個しか起こらないが鋳型がなく、これが致死の本体
  • 二本鎖切断の修復は、正確な相同組換え(S期後半〜G2期のみ) と、誤りやすい非相同末端結合。誤修復が二動原体染色体・環状染色体を生む
  • 細胞死には分裂死(数回分裂したあと・数 Gy)と間期死(その場で・高線量。ただしリンパ球は例外的に低線量で起こる)がある
  • LQモデル S=eαDβD2S=e^{-\alpha D-\beta D^2}α成分は1本の飛跡による殺傷β成分は損傷2つの重なりβ成分は時間をかければ修復されるので分割照射が成り立つ
  • α/βが小さい(2〜3 Gy)=晩期反応組織=1回線量に敏感。1回2 Gyの通常分割は、晩期障害だけを避けるための設計
  • 細胞周期の感受性は M期が最大・S期後半が最小。S期にHRが使えることが理由
  • ベルゴニー・トリボンドーの法則=分裂が盛ん・将来の分裂回数が多い・未分化なほど高感受性。リンパ球は例外
  • 分割照射の4つのRのうち、再増殖だけが治療に不利。だから治療期間は延ばさない

次回は、同じ1 Gyでも放射線の種類によって効き方が違うという話——LET・RBE・OERを扱います。この記事で出てきた「直接作用と間接作用」「酸素効果」が、そのまま土台になります。

過去問での問われ方は、過去問解説の記事一覧国家試験まとめから確認できます。

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