超音波のアーチファクトと安全性(多重反射・音響陰影・鏡面反射・MI/TI)
超音波シリーズの最終回です。アーチファクト——実際にはないものが写ったり、あるものが写らなかったりする現象を扱います。
国家試験では、超音波のアーチファクトは毎年のように画像問題で出ます。しかも聞かれ方は「矢印が示すアーチファクトはどれか」という形にほぼ固定されています。つまり、どこに・どんな形で出るかさえ整理できていれば、確実に得点できる分野です。
そしてもうひとつ。アーチファクトは装置の欠陥ではありません。むしろ、装置が置いている4つの決めつけの裏返しです。ここから入ると、丸暗記せずに済みます。
アーチファクトは「決めつけ」から生まれる
超音波装置は、画像を作るときに次の4つを前提にしています。
| 装置の決めつけ | 現実 | そこから生まれるもの |
|---|---|---|
| ① 音速はどこでも1,530 m/s | 脂肪1,450・筋肉1,580と幅がある | 位置ずれ、屈折 |
| ② 音はまっすぐ進む | 境界で屈折する | 外側陰影、レンズ効果(二重像) |
| ③ 反射は1回だけして戻る | 何度も往復する | 多重反射、鏡面反射 |
| ④ 信号はビームの主軸から来る | 脇に漏れたビームも拾う | サイドローブ、グレーティングローブ |
これに、深さに応じて一律に増幅している(STC) という前提を加えると、音響陰影と後方エコー増強も説明がつきます。
減衰の違いから生まれるもの
音響陰影(acoustic shadow) … 結石・石灰化・骨・ガスのように、強く反射して、しかも中でよく吸収されるものの真後ろが黒く抜けます。音がその先へ進めないからです。胆石や尿路結石を見つける手がかりにもなります。
後方エコー増強(acoustic enhancement) … 囊胞・膀胱・血管など、液体の真後ろが明るくなります。理屈はやや逆説的で、装置は「この深さならこれくらい減衰しているはずだ」と見込んで一律に増幅しています(STC)。ところが液体の中ではほとんど減衰しないので、増幅しすぎて明るくなるわけです。囊胞と充実性腫瘤を見分ける決め手になります。
外側陰影(側方陰影・lateral shadow) … 囊胞や胆囊など丸い構造の両脇の縁から、下向きに細い影が左右対称に2本伸びます。縁では音が斜めに入るため、屈折して外へ逃げてしまうのが原因です。
音響陰影と外側陰影は混同されがちですが、真後ろが広く黒いのが音響陰影、縁から細く2本なのが外側陰影と覚えれば迷いません。
反射が1回で終わらないから生まれるもの
多重反射(リバーベレーション) … プローブと強い反射面の間で、音が行ったり来たりします。装置は「2倍の深さから返ってきた」「3倍の深さから返ってきた」と素直に解釈するので、等間隔に同じ像が並びます。深いほど淡くなるのも特徴です。
膀胱の前壁、腸管ガス、金属など、強い反射面のあるところで起こります。プローブの当てる角度を変えると位置が変わるので、実務ではそれで見分けます。
コメット様エコー・リングダウン … 多重反射の一種で、ごく狭い間隔で往復するため、尾を引くように見えます。胆囊壁のロキタンスキー・アショフ洞(胆囊腺筋腫症)、金属クリップ、腸管ガスなどが原因になります。
鏡面反射(ミラーイメージ) … 横隔膜のようなきわめて強い反射面が鏡の役をします。音がそこで跳ね返って寄り道してから戻るので、装置は「もっと遠くから返ってきた」と解釈し、反射面の向こう側に虚像を描きます。
肝臓の超音波で横隔膜の向こう(胸腔側)に肝臓が写っているように見えたら、これです。実際にはそこに肝臓はありません。強い反射面をはさんで対称な像があることが決め手になります。膀胱や胸膜でも起こります。
ビームの主軸の外から来るもの
サイドローブ … プローブから出るビームは、主軸(メインローブ)だけではありません。脇に弱いビームが漏れています。この弱いビームが主軸の外にある強い反射体を拾うと、装置はそれを主軸上にあるものとして描いてしまいます。
胆囊や膀胱のような無エコー(真っ黒)の中に、うすい弧状の偽像として現れるのが典型です。本物の胆泥や隆起性病変との見分け方は、体位を変えると形が変わったり消えたりすることです。
グレーティングローブ … 同じく主軸外に出る副ローブですが、原因が違います。アレイの素子の間隔が原因で、間隔が波長の1/2より大きいと、主軸から離れた方向に強い副ローブが生じます。だから素子は細かく分割されています。
まっすぐ進まないから生まれるもの
レンズ効果(屈折による二重像) … 腹直筋と皮下脂肪のように音速の違う組織の境界で、音がプリズムのように曲げられます。すると1つの構造が2つに見えることがあります。腹部大動脈が2本に見える、胎児の頭が2つに見える、といった形で現れます。プローブを少しずらすと消えます。
音速の違いによる位置ずれ … 装置は1,530 m/sで距離を計算しています。脂肪(1,450 m/s)を通ってきた音は思ったより遅いので、装置は実際より深い位置に描いてしまいます。厚い脂肪層の向こうの構造がわずかにずれるのはこのためです。
部分体積効果 … これはスライス厚が原因です。スライス方向分解能はいちばん悪いので、細い囊胞ではスライスの中に周囲の組織が混ざり込み、囊胞の中に偽の内部エコーが出ることがあります。CTやMRIと同じ原理です。
一覧で整理する
| アーチファクト | どこに出るか | 形 | 原因 |
|---|---|---|---|
| 音響陰影 | 強い反射体の真後ろ | 広く黒く抜ける | 反射と吸収 |
| 後方エコー増強 | 液体の真後ろ | 明るくなる | 減衰が少ない |
| 外側陰影 | 丸い構造の両脇の縁 | 細い影が2本 | 屈折 |
| 多重反射 | 強い反射面の奥 | 等間隔の線 | 何度も往復 |
| コメット様エコー | 小さな強反射体の奥 | 尾を引く | 狭い間隔の多重反射 |
| 鏡面反射 | 強い反射面の向こう側 | 対称な虚像 | 鏡のように跳ね返る |
| サイドローブ | 無エコーの中 | うすい弧状 | 主軸外のビーム |
| レンズ効果 | 腹直筋などの奥 | 像が二重になる | 屈折 |
「どこに」と「形」の2つで、ほぼすべて切り分けられます。
安全性:超音波に電離作用はない
超音波は電磁波ではなく音なので、電離作用がありません。X線やγ線のようにDNAを直接壊すことはなく、被ばくという概念自体がありません。だから妊婦にも小児にも繰り返し使えます。
ただしまったく無害というわけではありません。生体作用は2つあります。
熱作用と TI(熱指数)
前回までに見たとおり、減衰の主役は吸収で、吸収されたエネルギーは熱になります。つまり組織の温度が上がります。
これを表す指標が TI(Thermal Index:熱指数) で、TIが1なら約1℃の温度上昇に相当するという目安です。対象によって3つに分かれます。
- TIS … 軟部組織(soft tissue)
- TIB … 骨(bone)が焦点付近にある場合。胎児の骨など
- TIC … 頭蓋骨(cranial bone)。経頭蓋の検査
骨は吸収が大きく、温度が上がりやすい点に注意が必要です。
機械的作用と MI(機械的指数)
音は圧力の波なので、陰圧のときには組織が引っ張られます。この力で微小な気泡がふくらみ、やがてつぶれる現象がキャビテーション(空洞化現象) です。つぶれる瞬間には局所的に高温・高圧が生じます。
指標は MI(Mechanical Index:機械的指数) です。
周波数が低いほどMIは大きくなります。診断用装置ではMIは1.9以下に制限されています。
なお超音波造影剤(ペルフルブタン)はマイクロバブルそのものなので、MIが高いと壊れてしまいます。だから造影検査では低MIで観察します。
ALARA の原則
放射線防護と同じ考え方が、超音波にも適用されます。必要な情報が得られる範囲で、出力は低く、時間は短く。
実務上のポイントを挙げておきます。
- 音響出力は最小限にして、明るさはゲインで作る(前回の装置の話とつながります)
- パルスドプラは1か所に音を集中させるため、Bモードより出力が高くなりやすい。胎児では特に慎重に
- 産科では必要のない長時間の観察や、記念撮影目的の使用は避ける
まとめ
- アーチファクトは、装置の4つの決めつけの裏返し。音速一定・直進・反射は1回・主軸から来る
- 音響陰影=強い反射体(結石・石灰化・骨・ガス)の真後ろが黒。後方エコー増強=液体の真後ろが明るい(STCが補正しすぎるため)
- 外側陰影=丸い構造の縁から細い影が2本。屈折による
- 多重反射=等間隔の線が奥へ並ぶ。深いほど淡い。コメット様エコーは狭い間隔で尾を引くもの
- 鏡面反射=横隔膜などを鏡にして、向こう側に対称な虚像
- サイドローブ=主軸の脇に漏れたビームの信号が主軸上に描かれる。無エコーの中のうすい弧状。体位で変わる
- グレーティングローブは素子の間隔が原因(波長の1/2より広いと生じる)
- レンズ効果=屈折による二重像。部分体積効果=スライス厚による囊胞内の偽エコー
- 見分け方は、どこに出るかとどんな形かの2つで足りる
- 超音波に電離作用はない。生体作用は熱作用(TI) と機械的作用(MI) の2つ
- TIは温度上昇の目安(TIが1で約1℃)。TIS・TIB・TICがあり、骨は温度が上がりやすい
- MI = 最大陰性音圧 ÷ √周波数。キャビテーションの目安で、診断用は1.9以下。造影検査は低MIで行う
- ALARAは超音波にも適用。出力は低く、時間は短く。パルスドプラと胎児では特に慎重に
これで超音波シリーズは完結です。物理 → 装置 → ドプラ → アーチファクトと安全性、という順で見てきましたが、振り返るとすべてが1本目の物理につながっていたことが分かると思います。音響インピーダンスの差が音響陰影を作り、吸収が熱になることがTIの根拠になり、減衰の補正が後方エコー増強を生んでいます。
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