超音波の物理(音速・音響インピーダンス・減衰・周波数)
超音波検査の画像は、音を送って、返ってきた音を聞くだけで作られています。X線のように体を突き抜けた分を測るのでもなければ、MRIのように磁気の応答を測るのでもありません。
このシンプルさゆえに、画像の見え方はほぼすべて音の物理で説明がつきます。「なぜゼリーを塗るのか」「なぜ骨の奥が見えないのか」「なぜ太った人だと見えにくいのか」——全部つながっています。
超音波シリーズの1本目として、その土台になる物理を整理します。
超音波とは何か
超音波は、人の耳に聞こえない高い周波数の音波です。可聴域の上限(約20 kHz)を超えるものを指し、診断では 2〜15 MHz 程度を使います。
まず押さえるべき点が2つあります。
① 音波は「波」だが、電磁波ではない
X線やγ線は電磁波で、真空中でも進みます。ところが音波は媒質の分子が押し合いへし合いして伝わるので、媒質がなければ伝わりません。真空では音は伝わらない、というあの話です。
② 生体内では縦波(疎密波)として伝わる
進む方向と同じ向きに分子が振動する波を縦波、直角に振動する波を横波といいます。生体の軟部組織は液体に近いので、伝わるのは縦波だけです。横波が伝わるのは骨のような固体に限られます。
音速:装置は1,530 m/sと決めつけている
音は分子が密に詰まっている媒質ほど速く伝わります。だから 気体 < 液体 < 固体 の順です。
数字で覚えておくべきは3つ。空気340・軟部組織1,530・骨4,080 m/s。空気だけが桁違いに遅いことが、あとで効いてきます。
そして重要なのが、超音波装置は生体内の音速をすべて1,530 m/sと決めつけて距離を計算しているという点です。
装置が測れるのは時間だけなので、音速を仮定しなければ距離に変換できません。ところが実際には脂肪は1,450、筋肉は1,580と幅があります。この前提と現実のずれが、屈折によるアーチファクトや位置ずれの原因になります。
音響インピーダンス:反射の強さを決めるもの
画像として見えているのは、境界面で反射して返ってきた音です。では、どこで強く反射するのか。それを決めるのが音響インピーダンス Z です。
密度 と音速 の積で、単位はレイル(kg/m²s)。そして境界での反射率は、両側のZの差で決まります。
この式から、超音波検査の常識がまとめて導けます。
ゼリーを塗る理由 … 探触子と皮膚の間に空気があると、Zの差が極端に大きいのでほぼ100%反射してしまい、音が体内に入りません。ゼリーで空気を追い出すのは、音の通り道を作るためです。
骨や結石の奥が見えない理由 … 骨とのZの差も大きく、43%が反射します。しかも残りは骨の中で強く減衰するので、奥に影ができる。これが音響陰影(acoustic shadow) です。胆石や石灰化でも同じことが起こります。
軟部組織の中は深くまで見える理由 … 脂肪と軟部組織の差はごくわずかで、反射は0.7%程度。ほとんどの音が奥へ進むので、深部まで観察できます。
肺と腸管が苦手な理由 … どちらも中に空気があるため、表面でほぼ全反射してしまいます。腸管ガスで膵臓が見えなくなるのはこのためです。
なお、境界面が音のビームに対して斜めになっていると、反射した音は探触子に戻ってきません。光が鏡で跳ね返るのと同じ理屈です。血管壁が斜めのときに描出が悪くなるのは、これが原因になります。屈折はスネルの法則に従います。
減衰:なぜ深部は見えにくいのか
音は進むほど弱くなります。これを減衰といい、3つの要因からなります。
| 要因 | 内容 | 割合 |
|---|---|---|
| 吸収 | 音のエネルギーが熱に変わる | 最大(減衰の大半) |
| 散乱 | 波長より小さい構造で四方に散る | 中 |
| 反射 | 境界面で跳ね返る | 小 |
重要なのは、減衰の主役は吸収であり、吸収されたエネルギーは熱になるという点です。これは安全性の話(組織の温度上昇、TI=熱指数)にそのままつながります。
減衰の量は次の関係で決まります。
軟部組織の減衰係数は約0.5 dB/(cm·MHz) です。つまり周波数にも距離にも比例して増える。5 MHzで10 cm進めば片道25 dB、往復で50 dBも減ってしまう計算になります。
減衰があるため、深いところからの信号ほど弱く返ってきます。そのまま表示すると深部が真っ黒になるので、装置は深さに応じて増幅率を変えて補正します。これが STC(sensitivity time control) や TGC(time gain compensation) と呼ばれる機能です。
一方、ゲインは深さによらず画面全体の明るさを一律に変える調整です。両者の違いは試験でも問われます。
周波数:深さと細かさの綱引き
ここまでの話をまとめると、周波数にはあちらを立てればこちらが立たない関係があります。
周波数を上げると
- 波長が短くなる → 分解能が上がる(細かく見える)
- 指向性が上がる → ビームが細く絞れる
- しかし減衰が大きくなる → 深部に届かない
だから臓器ごとに使うプローブが決まります。
| 対象 | 周波数の目安 | プローブの形 |
|---|---|---|
| 甲状腺・乳腺・頸動脈・体表 | 7〜15 MHz | リニア型 |
| 腹部(肝・腎・膵) | 3〜5 MHz | コンベックス型 |
| 心臓 | 2〜4 MHz | セクタ型(肋間から狭い窓で入る) |
分解能:2種類ある
「細かく見える」にも方向があります。
| 距離分解能(軸方向) | 方位分解能(横方向) | |
|---|---|---|
| 向き | ビームの進む方向 | ビームと直角の方向 |
| 決まるもの | パルス幅(波長) | ビーム幅 |
| 良くするには | 周波数を上げる・パルスを短く | ビームを細く絞る(フォーカス) |
| どちらが良いか | 距離分解能のほうが良い | 距離分解能より劣る |
一般に距離分解能のほうが優れています。ビーム幅を波長ほど細く絞るのは難しいためで、この差がサイドローブなどのアーチファクトの背景にもなります。
超音波検査の長所と短所
物理から出てくる特徴を整理しておきます。
長所
- 電離放射線を使わないので、被ばくがない(妊婦や小児にも使える)
- リアルタイムに動きが見える(心臓の壁運動、血流)
- 任意の断面を自由に取れる
- ベッドサイドに持ち込める
短所
- 空気と骨に弱い(肺・腸管ガス・骨の奥が見えない)
- 術者の技量に大きく依存する(再現性が課題)
- 深部と肥満例で画質が落ちる(減衰のため)
- 視野が狭く、全体像の把握には向かない
まとめ
- 超音波は媒質がないと伝わらない音波。生体内では縦波として伝わる。診断では2〜15 MHz
- 音速は 気体 < 液体 < 固体。空気340・軟部組織1,530・骨4,080 m/s。遅い順は空気 → 脂肪 → 筋肉 → 骨
- 装置は音速を1,530 m/sと決めつけて距離を計算している。この前提とのずれが位置ずれの原因になる
- 音響インピーダンス Z = 密度 × 音速。反射の強さは両側のZの差で決まる
- 空気とはほぼ全反射(99.9%)→ ゼリーが必要・肺と腸管ガスが苦手。骨とは43%反射 → 音響陰影。軟部組織どうしは1%未満 → 深部まで見える
- 減衰の主役は吸収で、吸収されたエネルギーは熱になる。減衰量は周波数にも距離にも比例(軟部組織で約0.5 dB/cm/MHz)
- 深さによる明るさムラを補正するのが STC/TGC、画面全体の明るさがゲイン
- 周波数を上げると分解能は上がるが深部に届かない。浅い臓器ほど高い周波数(甲状腺15 MHz ⇔ 心臓2〜4 MHz)
- 分解能は2種類。距離分解能(パルス幅で決まる・良い) と 方位分解能(ビーム幅で決まる・劣る)
- 長所は無被ばく・リアルタイム・任意断面、短所は空気と骨に弱い・術者依存
次回は、この音を実際に出し入れしている装置とプローブ——圧電素子、ビームの絞り方、走査方式、表示モードを扱います。
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