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放射線物理学

荷電粒子と中性子(阻止能・ブラッグピーク・LET・BNCT)

前回の光子と物質の相互作用では、電荷を持たない光子の話をしました。今回は電荷を持つ粒子(荷電粒子)と、電荷を持たない中性子を扱います。

この2つは正反対の性質を持ちます。荷電粒子は連続的に少しずつエネルギーを失い、決まった深さでピタリと止まります。一方中性子は原子核とだけ反応し、光子のように指数関数で減っていきます。粒子線治療もBNCTも、この違いを利用しています。

荷電粒子はどうエネルギーを失うか:阻止能

荷電粒子(陽子・α粒子・炭素イオンなど)が物質を通ると、まわりの電子を次々と電離・励起しながら、少しずつエネルギーを失っていきます。単位長さあたりに失うエネルギーを阻止能(stopping power)といいます。

S=dEdx[MeV/cm]S = -\frac{dE}{dx} \quad [\text{MeV/cm}]

物質の密度で割った質量阻止能 S/ρS/\rho[MeV·cm²/g]を使うと、密度の違いを気にせず物質そのものを比較できます。

阻止能の大きさは、ベーテの式からおおよそ次の形になります。

Sρz2v2ZA\frac{S}{\rho} \propto \frac{z^2}{v^2}\cdot\frac{Z}{A}

  • zz入射粒子の電荷数(陽子なら1、α粒子なら2、炭素イオンなら6)
  • vv入射粒子の速度
  • Z/AZ/A … 物質の原子番号/質量数(水素以外はどの物質も約0.5

ここから、国家試験で問われる4つの性質が出てきます。

何に依存するかどう効くか
入射粒子の電荷数 zz2乗に比例。炭素(zz=6)は陽子の36倍
入射粒子の速度 vv2乗に反比例。=エネルギーに反比例(遅いほど激しく失う)
入射粒子の質量無関係。同じ速度なら質量が違っても同じ
物質の密度質量阻止能は密度で割った量なので無関係

ブラッグピーク:なぜ終端で線量が跳ね上がるのか

阻止能が「エネルギーに反比例」するということは、粒子が遅くなるほど、激しくエネルギーを落とすということです。

粒子は物質中を進むにつれて減速します。すると阻止能がさらに上がり、もっと減速する——この繰り返しで、止まる直前に一気にエネルギーを放出します。これがブラッグピークです。

陽子線と光子(X線)の深部線量分布 横軸が体内の深さ、縦軸が相対線量のグラフ。光子(X線)は数センチの浅い位置で最大となったあと、指数関数的にゆるやかに減り、深部にも線量が残る。陽子線は浅い部分の線量が低いまま進み、止まる直前で急激に立ち上がってブラッグピークを作り、その先はゼロになる。 光子(X線) 浅い所で最大 → ゆるやかに減衰 深部にも線量が残る 陽子線 止まる直前に一気に エネルギーを放出 =ブラッグピーク この先には 線量が届かない 0 5 10 15 20 体内の深さ[cm] 0 50 100 相対線量[%]
図1:陽子線と光子(X線)の深部線量分布。陽子線は止まる直前にブラッグピークを作り、その先には線量が届かない。

この性質が、粒子線治療の最大の武器です。ピークの深さは入射エネルギーで自由に決められるので、腫瘍の位置にピークを合わせれば、手前の正常組織の線量を抑え、腫瘍の先には線量を届けないという照射ができます。

実際の治療では、腫瘍には厚みがあるので、エネルギーを少しずつ変えたビームを重ね合わせて、ピークを幅のある平坦な領域に広げます。これをSOBP(Spread-Out Bragg Peak:拡大ブラッグピーク)といいます。

飛程:どこまで届くか

荷電粒子は、光子と違って決まった距離で止まります。この距離が飛程(range)です。

飛程はエネルギーが高いほど長く電荷数が大きく重い粒子ほど短くなります。核医学では、この飛程が画質に直結します。

LET:どれだけ「密に」エネルギーを与えるか

LET(Linear Energy Transfer:線エネルギー付与)は、荷電粒子が飛跡に沿って局所に与えるエネルギー÷距離です。単位はkeV/µm

阻止能とよく似ていますが、違いは「どこまでを局所と数えるか」にあります。荷電粒子が電子をはじき飛ばすと、その電子(δ線)が遠くまで飛んでいってしまうことがあります。LETではカットオフ値 Δを決めて、「Δより大きなエネルギーを持つδ線は遠くへ逃げるので数えない」という約束にします(LΔL_\Delta と書きます)。

つまり、カットオフを無限大にすれば、逃げていく分も全部数えることになり、線衝突阻止能と一致します。

LETの大小は、生物への影響(RBE:生物学的効果比)に直結します。

  • 低LET放射線 … X線・γ線・電子線。まばらに電離する
  • 高LET放射線 … α線・重粒子線・中性子。密に電離するので、DNAに二重鎖切断を作りやすく生物効果が大きい

中性子:電荷がないから原子核としか反応しない

中性子は電荷を持ちません。ここからすべての性質が導かれます。

  • 軌道電子とは相互作用しない(電気的な力が働かないため)
  • 相手は原子核だけ。弾性散乱・非弾性散乱・捕獲反応などを起こす
  • 光子と同じく、物質の厚さとともに指数関数的に減っていく(荷電粒子のように「一定の飛程で止まる」わけではない)

中性子はエネルギーで呼び名が変わり、性質も大きく違います。

呼び名エネルギーの目安特徴
熱中性子約0.025 eV(室温)遅い。原子核に捕獲されやすい
熱外中性子0.5 eV〜10 keV中間
速中性子0.5 MeV以上速い。弾性散乱で減速していく
中性子の減速と捕獲 中性子の挙動を示す図。左に速中性子があり、水素などの軽い原子核と弾性散乱をくり返してエネルギーを失い、右で熱中性子になる。中性子とほぼ同じ質量の水素とぶつかると一度の衝突でエネルギーを全部渡せるが、重い原子核では跳ね返されるだけで効率が悪い。熱中性子になると原子核に捕獲されやすくなり、その起こりやすさは速度に反比例する。 速中性子 0.5 MeV 以上 速くて捕まりにくい 熱中性子 約 0.025 eV 遅くて捕まりやすい 弾性散乱で減速 ぶつかるたびにエネルギーを失う 減速材は「軽い」元素 n H 同じ質量 → 100%渡せる 水・パラフィン・黒鉛を使う 重い核では跳ね返されるだけ 捕獲されやすさ=1/v則 捕獲断面積は 速度に反比例 遅い中性子ほど核のそばに 長くとどまるので捕まりやすい 中性子は電荷を持たない → 軌道電子とは反応せず、原子核とだけ反応する だから光子と同じく、厚さとともに指数関数的に減る
図2:中性子の減速と捕獲。減速材には中性子と質量の近い軽い元素を使う。遅くなるほど捕獲されやすくなる(1/v則)。

減速材に軽い元素を使う理由

速中性子を遅くするには、中性子と質量の近い相手にぶつけるのが最も効率的です。ビリヤードで同じ大きさの球に正面衝突させると、運動エネルギーがそっくり移るのと同じ理屈です。

水素(陽子)は中性子とほぼ同じ質量なので、1回の衝突で最大100%のエネルギーを渡せます。だから減速材には水・パラフィン・黒鉛といった軽い元素を含む物質を使います。重い原子番号の物質では跳ね返されるだけで、ほとんど減速しません。

BNCT:中性子の性質を治療に使う

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)は、中性子の「熱中性子は捕獲されやすい」という性質を利用した治療法です。

  1. がん細胞に ホウ素1010B)を取り込ませる
  2. 熱中性子を照射する
  3. 10B が中性子を捕獲し、α粒子とリチウム核に分裂する

10B+n7Li+4He (α)^{10}\mathrm{B} + n \rightarrow {}^{7}\mathrm{Li} + {}^{4}\mathrm{He}\ (\alpha)

中性子が入ってα粒子が出るので、(n, α)反応と表記します。

この治療のすごいところは、生じたα粒子と7Liの飛程が5〜9 µm=細胞1個分しかないことです。つまり、ホウ素を取り込んだがん細胞だけが破壊され、隣の正常細胞には届きません。荷電粒子の「飛程が短い」という性質が、そのまま選択性になっています。

まとめ

  • 阻止能は z2/v2z^2/v^2 に比例。電荷数の2乗に比例エネルギーに反比例。入射粒子の質量とは無関係、質量阻止能は密度とも無関係
  • 遅くなるほど激しくエネルギーを落とすので、止まる直前にブラッグピークができる。ピークの深さは入射エネルギーで決まり、これが粒子線治療の武器
  • 陽電子の飛程が短いほどPETの分解能が良い18F(0.63 MeV・約2.4 mm)が最短
  • LETは局所に与えるエネルギー÷距離[keV/µm]。カットオフ無限大で線衝突阻止能と一致。電荷の2乗に比例し、エネルギーが高いほど低い
  • 中性子は電荷がないので軌道電子と反応せず、原子核とだけ反応。光子と同じく指数関数的に減衰
  • 熱中性子は0.025 eV。捕獲断面積は速度に反比例(1/v則)。減速材は水素など軽い元素
  • BNCTは(n, α)反応。生じたα粒子の飛程が細胞1個分なので、がん細胞だけを選択的に壊せる

過去問での問われ方は、過去問解説の記事一覧国家試験まとめから確認できます。

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