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放射線物理学

光子と物質の相互作用(光電効果・コンプトン散乱・電子対生成)

X線やγ線が体を通るとき、光子は物質の中で何をしているのか——これが光子と物質の相互作用です。画像のコントラストがつく理由も、遮へいの厚さを決める根拠も、すべてここから出てきます。国家試験でも毎回複数問出る最重要テーマです。

この記事では、4つの相互作用を「何が飛び出すか」「いつ優勢になるか」の2点で整理します。

4つの相互作用:まず全体像

光子が物質に入ったとき、起こりうることは大きく4つです。

相互作用相手起こる条件主に出るもの
光電効果内殻の軌道電子低エネルギー・高原子番号で優勢光電子+特性X線 or オージェ電子
コンプトン散乱外殻のゆるい電子中間エネルギー(数十keV〜数MeV)で優勢反跳電子+散乱光子
電子対生成原子核の電場1.022 MeV以上で発生電子+陽電子(のち消滅放射線
レイリー散乱原子全体低エネルギー。エネルギーを失わない方向が変わった光子のみ

さらに、非常に高いエネルギーでは光核反応(光子が原子核を壊して中性子などを出す)も起こります。

大事なのは、電子対生成には1.022 MeVという「しきい値」があることです。電子と陽電子を1個ずつ作るには、静止質量に相当する 0.511 MeV × 2 のエネルギーが最低限必要だからです。これより低いエネルギーでは、絶対に起こりません。

どれが優勢になるか:エネルギーと原子番号で決まる

3つの主要な相互作用のうちどれが優勢になるかは、光子のエネルギー物質の原子番号Zの2つで決まります。これを1枚にまとめたのが次の図です。

相互作用が優勢になる領域 横軸が光子エネルギー(0.01から100 MeVの対数目盛)、縦軸が物質の原子番号Z(0から100)のグラフ。左下から右上へのびる曲線より左が光電効果の領域、右下から右上へのびる曲線より右が電子対生成の領域、その間の広い中央部がコンプトン散乱の領域。水は原子番号約7.5、鉛は82の高さにあり、水では診断領域のほぼ全域でコンプトンが優勢、鉛では低エネルギー側で光電効果が優勢になる。 光電効果 低エネルギー 高原子番号 コンプトン散乱 中間エネルギー 診断領域の主役 電子対生成 1.022 MeV以上 高原子番号ほど早く 0.01 0.1 1 10 100 光子エネルギー[MeV](対数目盛) 0 20 40 60 80 100 物質の原子番号 Z 水・軟部組織 鉛(遮へい) ヨウ素(造影剤)
図1:どの相互作用が優勢になるか。左が光電効果、中央がコンプトン散乱、右が電子対生成の領域。水(Z≈7.5)と鉛(Z=82)では境目の位置が大きく違う。

この図から、実務に直結する3つのことが読み取れます。

  • 軟部組織(水)では、診断領域のほとんどでコンプトン散乱が主役。散乱線が多く出るのはこのため
  • 鉛では低エネルギー側で光電効果が優勢。だから鉛は遮へい材として効く
  • ヨウ素造影剤(Z=53)は境目が高い。診断エネルギー域で光電効果が起こりやすく、周囲の軟部組織とのコントラストがつく

各相互作用の「起こりやすさ」の目安

  • 光電効果 … おおよそ Z³〜Z⁵に比例、エネルギーの3乗に反比例Zn/E3\propto Z^n/E^3)。原子番号への依存が非常に強い
  • コンプトン散乱電子の数(=Zにほぼ比例)で決まり、原子番号への依存が弱い。エネルギーとともに緩やかに減る
  • 電子対生成Z²に比例し、1.022 MeVを超えるとエネルギーとともに増える

「造影剤や骨がよく写るのは光電効果のZ依存性が強いから」「高エネルギーになるほど画像のコントラストがつきにくいのはコンプトンが主役になるから」と説明できます。

光電効果:内殻から始まる連鎖

光電効果では、光子が内殻(K殻など)の電子にエネルギーを全部渡して消え、電子が光電子として飛び出します。

ここで内殻に穴(空孔)が空くのがポイントです。外側の電子がこの穴を埋めるとき、余ったエネルギーが2つの形のどちらかで出ます。

  • 特性X線 … 余ったエネルギーが電磁波として出る。殻のエネルギー差そのものなので線スペクトル(とびとび)
  • オージェ電子 … 余ったエネルギーで別の軌道電子を弾き飛ばす

この2つは競合関係で、どちらか一方が起こります。原子番号が小さいほどオージェ電子が優勢になります。

電子が主役の現象と区別する

「光子と物質」の相互作用と、「電子と物質」の相互作用は、混同しやすいので分けて覚えます。

光子が起こす電子(荷電粒子)が起こす
光電効果制動放射(原子核の電場で減速して光子を出す)
コンプトン散乱電離・励起(衝突で相手の電子をはじく)
電子対生成チェレンコフ放射(媒質中の光速を超えて進むとき)
光核反応δ線の発生

減弱と半価層

光子のビームが物質を通ると、相互作用によって数が減っていきます。これを減弱といい、細いビーム(狭ビーム)では指数関数で減ります。

I=I0eμxI = I_0 e^{-\mu x}

  • I0I_0 … 入射前の強度、II … 厚さ xx を通った後の強度
  • μ\mu線減弱係数[cm⁻¹]。物質と光子エネルギーで決まる

強度が半分になる厚さ半価層(HVL)です。I/I0=1/2I/I_0 = 1/2 を代入して解くと、次の関係が出ます。

半価層=ln2μ=0.693μ\text{半価層} = \frac{\ln 2}{\mu} = \frac{0.693}{\mu}

また、密度の影響を除いて物質そのものの性質を比べたいときは、線減弱係数を密度で割った質量減弱係数 μ/ρ\mu/\rho[cm²/g]を使います。同じ物質なら、氷でも水でも水蒸気でも質量減弱係数は同じです。

指数関数的な減弱と半価層 横軸が物質の厚さ、縦軸が光子の強度のグラフ。強度は指数関数の曲線で減っていく。強度が半分になる厚さが第1半価層、さらに半分(4分の1)になるまでの厚さが第2半価層。狭ビームでは第1と第2の半価層は等しい。 第1半価層 第2半価層 I₀ I₀/2 I₀/4 物質の厚さ x 光子の強度 I 狭ビームでは 第1半価層 = 第2半価層 (指数関数なので一定) I = I₀ e −μx
図2:指数関数的な減弱と半価層。強度が半分になる厚さが半価層で、狭ビームなら第1半価層と第2半価層は等しい。

半価層は線質(ビームの硬さ)の指標としても使われます。半価層が大きいほど「硬い(透過力の高い)」ビームです。

まとめ

  • 光子の相互作用は光電効果・コンプトン散乱・電子対生成・光核反応(+エネルギーを失わないレイリー散乱)
  • 電子対生成のしきい値は1.022 MeV(0.511 MeV × 2)。これ未満では起こらない
  • 優勢になる領域は「低エネルギー・高Z=光電効果/中間=コンプトン/高エネルギー・高Z=電子対生成」
  • 光電効果はZ依存が非常に強い(造影剤・骨が写る理由)。コンプトンは診断領域の主役(散乱線の原因)
  • 光電効果の後は特性X線とオージェ電子が競合。特性X線は線スペクトル、制動X線は連続スペクトル
  • 制動放射とチェレンコフ放射は電子(荷電粒子)側の現象
  • 半価層 = ln2/μ = 0.693/μ。連続スペクトルでは線質硬化により第2半価層のほうが大きい

過去問での問われ方は、過去問解説の記事一覧国家試験まとめから確認できます。

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