X線画像の「ボケ」は、見た目で語っているかぎり主観のままです。MTF(Modulation Transfer Function、変調伝達関数)は、そのボケを空間周波数ごとの数値に置き換えたもので、装置の解像特性を客観的に比べるための共通言語になっています。
国家試験の医用画像情報学では、MTF は最頻出のテーマです。ただし聞かれ方には強いクセがあります。「MTF とは何か」を素直に問う問題はむしろ少数で、出題はどうやって測るのか(エッジ法・スリット法)と、なぜエッジをわずかに傾けるのか(プリサンプルドMTF)に集中しています。
この記事では、空間周波数の数え方から測定手順、そしてプリサンプルドMTFとデジタルMTFの違いまでを順に追います。モダリティごとのやさしい入門は「CT画質の物理評価」「一般撮影の画質」にあります。
空間周波数:1 mm に縞が何組入るか
白1本+黒1本で 1 周期。空間周波数は 1周期の長さの逆数。cycles/mm と LP/mm は同じ意味。
空間周波数は、縞の細かさを表す量です。単位は cycles/mm(サイクル毎ミリメートル)で、LP/mm(ラインペア毎ミリメートル)とまったく同じ意味です。
つまずきやすいのは「1周期」の取り方です。白い線1本と黒い線1本を合わせて1周期と数えます。線1本ではありません。
空間周波数は、1周期の長さの逆数です。
空間周波数=1周期の長さ1=2d1
d は線1本の幅です。たとえば d=0.8 mm なら、1周期は 0.8×2=1.6 mm。したがって
1.61=0.625≒0.6 cycles/mm
選択肢には、線1本を1周期と数えた2倍の値(1.2 cycles/mm)が引っ掛けとして用意されています。引っかからないように注意しましょう。
桁の感覚もつかんでおきましょう。画素 100 µm(0.1 mm)の FPD なら、記録できる上限であるナイキスト周波数は 5 cycles/mm です。0.6 cycles/mm はかなり太い縞、5 cycles/mm は 0.1 mm の細さにあたります。この2つを基準にしておくと、計算結果の桁がおかしいときにすぐ気づけます。
MTF:縞のコントラストが、どれだけ残るか
MTF は出力の振幅を入力の振幅で割った比。細かい縞ほど振幅がつぶれる。平均の明るさは変わらないので、計算に平均値は使わない。
MTF の定義はひとことで書けます。
MTF(u)=入力の振幅出力の振幅
ある空間周波数 u の正弦波(縞)をシステムに入れたとき、振幅(明暗の差)が何割残って出てくるかの比です。性質は3つ覚えれば足ります。
- 空間周波数がゼロ、つまり一様な面のときは、MTF は必ず 1
- 周波数が上がるほど縞はつぶれ、MTF は下がっていく
- 比なので無次元。単位は付かず、0 から 1 の値をとる
ここで最も落としやすいのが、MTF が効くのは振幅だけで、平均の明るさ(直流成分)は変わらないという点です。
たとえば、平均 10・振幅 3 の正弦波(2 cycles/mm)を、その周波数での MTF が 0.4 のシステムに入れたとします。出力の振幅は
3×0.4=1.2
で、平均は 10 のままです。計算に「平均 10」は一切使いません。問題文に平均値がわざわざ書いてあるのは、使わせるためではなく、迷わせるためです。
MTF の測り方は3つある
エッジ法はエッジ画像 → ESF → 微分して LSF → フーリエ変換して MTF の4段階。ESF をそのままフーリエ変換してはいけない。
MTF を実測する方法は、大きく3つあります。
矩形波チャート法は、解像力チャート(白黒の縞)を撮って、縞ごとのコントラストを読む方法です。手軽ですが、得られるのは正確には MTF ではなく CTF(矩形波応答関数)です。矩形波は同じ振幅の正弦波よりも基本周波数成分が大きいため、CTF は MTF より高い値になります。厳密な MTF に直すには Coltman の式で補正します。
スリット法は、幅 10 µm 程度のごく細い金属スリットを撮る方法です。細い線に対する応答そのもの、つまり LSF が直接得られるのが長所で、微分の段階が要りません。ただし通ってくる光量が少ないのでノイズに弱く、設置の角度合わせもシビアです。
エッジ法は、鋭い直線の境界を持つ金属エッジを撮る方法です。現在の標準的なやり方で、流れは次の4段階になります。
- 金属エッジを撮影する
- 境界をまたぐ画素値の並びから ESF(Edge Spread Function、エッジ広がり関数)を得る
- ESF を微分して LSF(Line Spread Function、線広がり関数)にする
- LSF をフーリエ変換し、その絶対値をとって MTF を得る
この4段階について、試験では次の3点が繰り返し狙われます。
- ESF をそのままフーリエ変換してはいけない。必ず微分して LSF にしてからです
- MTF は LSF のフーリエ変換の絶対値であって、2乗ではありません。2乗(パワースペクトル)を扱うのは、ノイズ側の指標である NPS(ウィナースペクトル)のほうです
- トレンド補正(裾のゆるやかな傾きを取り除く処理)をかけるのは LSF です。ESF にかけると書いてあれば誤りです
プリサンプルド MTF:なぜ「わずかに傾ける」のか
画素列と平行に置くと、どの行も同じ位置になって細かく測れない。2〜3 度だけ傾けると、行ごとに位置がずれて画素の間が埋まる。
デジタルシステムには、アナログにはない制約があります。画素の間隔でしか値を読めないことです。
画素間隔が 0.1 mm のシステムで、エッジを画素列と平行に置いて撮ったとしましょう。すると、どの行を見てもエッジは画素に対してまったく同じ位置に来ます。何行ぶん集めても ESF の標本点は 0.1 mm 刻みのままで、それより細かくはなりません。
そこで、エッジを画素列に対して 2〜3 度だけ傾けます。すると行ごとにエッジの位置がほんの少しずつずれるので、全行を重ね合わせたときに、画素の間を埋めるように細かい標本点が手に入ります。これがオーバーサンプリングで、こうして求めた「標本化の影響を受ける前の特性」を プリサンプルドMTF と呼びます。
角度の数字はそのまま問われます。2〜3 度です。15 度では傾けすぎで、エッジが斜めに長く写ってしまい、かえって扱いにくくなります。
逆に、平行に置いてしまうと測定は失敗します。第78回 午後 問95 がまさにこれで、スリット法でスリットの長軸を画素列と平行にしたために、高空間周波数で MTF が見かけ上、上昇しました。オーバーサンプリングが成立せず、折り返し成分が MTF に混ざり込むためです。
MTF が高周波で上がった、と書いてあったら測定ミスを疑う。これは強力な当たりをつけ方です。MTF は本来、周波数が上がれば下がる一方の量なので、途中で上がることは物理的に起こりません。
デジタル MTF とエリアシング
ナイキスト周波数 = 1 ÷ (2 × 標本化間隔)。超えた成分は消えず、低周波側に折り返して混ざる。だからプリサンプルドMTFとデジタルMTFは一致しない。
標本化間隔を Δ とすると、
標本化周波数 fs=Δ1,ナイキスト周波数 fN=2Δ1
標本化間隔 0.1 mm なら、fs=10 cycles/mm、fN=5 cycles/mm です。
ナイキスト周波数を超える成分は、消えてなくなるのではありません。低い周波数側に折り返して紛れ込みます。これがエリアシング(折り返し)です。
ここから、2つの MTF を区別する必要が出てきます。
- プリサンプルドMTF … 標本化の影響を受ける前の、システム本来の解像特性
- デジタルMTF … そこに折り返し成分が足されたあとの、実際に得られる特性
この2つは一致しません。とくにナイキスト周波数の近くでは、折り返してきた成分が重なるぶん、デジタルMTFのほうが高く出ます。
第76回 午前 問93 の正解は、そのまま「デジタルMTFではサンプリングに伴うエリアシングの影響を受ける」でした。第75回 午前 問94 も、プリサンプルドMTFとデジタルMTFが別物であることを前提にした出題です(この問題は公式の正答値表で複数の選択肢が正答とされましたが、問われている考え方は上のとおりです)。
オーバーオール MTF は、各要素のかけ算
全体の MTF は各要素の MTF のかけ算。だからいちばん悪い要素が全体を決めてしまう。2つの積だけでは足りず、標本化や画像処理も含む。
撮影系には、焦点の大きさによるボケ、検出器の画素開口によるボケ、散乱線、画像処理と、いくつものボケ要因が直列につながっています。全体の MTF は
MTF全体(u)=MTF1(u)×MTF2(u)×⋯
と、各要素の MTF のかけ算になります。ここから2つの性質が出てきます。
- 各要素の MTF に影響される。「オーバーオールMTFは構成要素のMTFに影響を受けない」という選択肢は誤りです
- いちばん悪い要素が全体を決めてしまう。ほかをどれだけ良くしても、0.2 を掛ければ結果は 0.2 以下にしかなりません
現場で「検出器を新しくしたのに、思ったほどシャープにならない」ということが起きるのは、たいていこの2番目が理由です。焦点サイズや散乱線対策など、いちばん足を引っ張っている要素を探すほうが効果があります。
もうひとつ、「オーバーオールMTF = アナログMTF × アパーチャMTF」という選択肢は不足です。オーバーオールMTFには、標本化や画像処理の影響まで含まれます。
試験で問われやすいポイント
| 論点 | 覚える形 |
|---|
| 空間周波数の数え方 | 白1本+黒1本で1組。1÷(2×線の幅) |
| MTF の定義 | 出力の振幅 ÷ 入力の振幅。無次元、MTF(0) = 1 |
| MTF の計算 | 振幅だけに効く。平均値は使わない |
| エッジ法の順番 | ESF → 微分 → LSF → フーリエ変換 → MTF |
| MTF は何の変換か | LSF のフーリエ変換の絶対値(2乗ではない) |
| トレンド補正 | かけるのは LSF |
| 傾ける角度 | 2〜3 度(15 度は傾けすぎ) |
| 平行に置くと | 測定失敗。高周波で MTF が見かけ上 上昇する |
| ナイキスト周波数 | 1÷(2×標本化間隔) |
| デジタル MTF | エリアシングの影響を受ける。プリサンプルドMTFとは別物 |
| オーバーオール MTF | 各要素のかけ算。2つの積だけでは足りない |
判断に迷ったときの当たりのつけ方を2つ。
- MTF が高周波で上がっている と書かれていたら、物理的にありえないので測定ミスを疑う
- 「〜のみである」「〜に影響を受けない」といった強い断定は、MTF の問題ではほぼ誤り
まとめ
- 空間周波数は「1 mm に縞が何組入るか」。白1本+黒1本で1組。選択肢の2倍の値は引っ掛け
- MTF = 出力の振幅 ÷ 入力の振幅。無次元で、MTF(0) は必ず 1。平均の明るさは変わらないので計算に使わない
- 測定法は矩形波チャート法・スリット法・エッジ法の3つ。エッジ法が標準で、ESF → 微分 → LSF → フーリエ変換 → MTF の順を飛ばさない
- プリサンプルドMTFは、エッジやスリットを 2〜3 度傾けて画素の間を埋めて測る。平行にすると失敗し、高周波で MTF が見かけ上 上昇する
- ナイキスト周波数 = 1 ÷ (2 × 標本化間隔)。超えた成分は折り返し、デジタルMTFはプリサンプルドMTFとは一致しない
- オーバーオールMTFは各要素のかけ算。いちばん悪い要素が全体を決める
MTF は「信号がどれだけ伝わるか」を表す指標でした。画質を語るにはもう一方、ノイズがどれだけ乗るかが要ります。それが次の記事「ウィナースペクトル・NEQ・DQE」で扱うウィナースペクトルと、両者を組み合わせた NEQ・DQE です。
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