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放射線計測学

測定値の扱い方(統計変動・時定数・表面汚染・個人被ばく線量計)

計測学シリーズの最終回です。ここまでは「どうやって捕まえるか」の話でしたが、今回は「測ったあと、その数字をどう扱うか」を扱います。

この分野は計算問題の宝庫です。しかも、聞かれ方がほぼ決まっています。√N・時定数・表面汚染密度・不均等被ばく——この4つの型を押さえれば、確実に得点源になります。

計数は必ずばらつく

計数の統計変動放射線の計数の統計変動を説明した図。計数はポアソン分布に従うため、N回数えたときの標準偏差は√Nになる。相対誤差は√NをNで割った1割る√Nである。平方根を取ってよいのは計数値Nだけで、計数率にいきなり平方根を掛けてはいけない。計数が100なら標準偏差10で相対誤差10パーセント、400なら20で5パーセント、1600なら40で2.5パーセント、10000なら100で1パーセントとなる。精度を2倍にするには計数を4倍にする必要がある。バックグラウンドを引いても誤差は減らず、引き算でも誤差は2乗して足す。2分で400カウント、バックグラウンドが1分で100カウントのとき、正味は100カウント毎分、標準偏差は400を4で割った値と100を1で割った値を足した200の平方根で約14カウント毎分になる。放射線の計数は、必ずばらつく同じ試料を同じ時間測っても、毎回同じ数にはならない(ポアソン分布)覚えるのはこの1本だけN 回数えたら、σ = √N相対誤差 = √N ÷ N = 1 ÷ √N平方根を取ってよいのは「計数値 N」だけ計数率(N/t)にいきなり√を掛けてはいけないたくさん数えるほど精度が上がる計数 N標準偏差 √N相対誤差1001010%400205%1,600402.5%10,0001001%精度を2倍にするには、計数を4倍にする必要があるバックグラウンドを引いても、誤差は減らない引き算でも誤差は「2乗して足す」(誤差の伝播)。ここが最大のひっかけσ(正味) = √( N総 ÷ t総² + NBG ÷ tBG² )例:2分で400カウント、BGは1分で100カウント正味 = 200 − 100 = 100 cpm  σ = √(400/4 + 100/1) = √200 ≒ 14 cpmBG側の誤差を忘れると 10 になってしまう。これが定番の誤答
覚えるのは「N 回数えたら σ = √N」の1本だけ。平方根を取ってよいのは計数値 N に対してだけで、計数率にいきなり√を掛けてはいけない。

放射性崩壊はでたらめに起こる現象です。同じ試料を同じ時間測っても、毎回きっちり同じ数にはなりません。このばらつきはポアソン分布に従い、次の性質を持ちます。

σ=N\sigma = \sqrt{N}

NN は計数値(何回数えたか)です。すると相対誤差は次のようになります。

σN=NN=1N\frac{\sigma}{N} = \frac{\sqrt{N}}{N} = \frac{1}{\sqrt{N}}

たくさん数えるほど精度が上がるわけですが、平方根なので効きは緩やかです。精度を2倍にするには、計数を4倍にしなければなりません。

計数率にするときは、時間で割る

計数率は N/tN/t です。標準偏差も同じように tt で割ります(測定時間 tt は誤差のない定数として扱う)。

Nt±Nt\frac{N}{t} \pm \frac{\sqrt{N}}{t}

ここでやってはいけないのが N/t\sqrt{N/t}。これは「計数率の平方根」であって、計数率の標準偏差ではありません。平方根を取ってよいのは計数値そのものだけです。

バックグラウンドを引いても、誤差は減らない

ここが最大のひっかけです。引き算をしても誤差は打ち消し合いません。むしろ2乗して足す(誤差の伝播)ので、増えます。

σ正味=N総t総2+NBGtBG2\sigma_{\text{正味}} = \sqrt{\frac{N_{\text{総}}}{t_{\text{総}}^{2}} + \frac{N_{\text{BG}}}{t_{\text{BG}}^{2}}}

サーベイメータの時定数

サーベイメータの時定数サーベイメータの指針が真の値に近づくようすを示したグラフ。読みを真の値で割った値は1からeのマイナスt割るτ乗を引いた形で増えていく。時定数の1倍で約63パーセント、2倍で約86パーセント、3倍で約95パーセントに達する。時定数を短くすると応答は速いがふらつくので汚染の場所を探すときに使い、長くすると安定するが応答が遅くなるので線量率を正確に読むときに使う。実務では時定数の3倍待つと教わるが、85パーセントでよいなら2倍で足りる。サーベイメータの針は、じわじわ真の値に近づく当てた瞬間の値は当てにならない。時定数の何倍か待ってから読む真の値(100%)1τ約 63%2τ約 86%3τ約 95%当ててからの時間(時定数 τ の何倍か)指針の読み時定数の使い分け短くする応答が速い/ふらつく→ 汚染の場所を探すとき長くする安定する/応答が遅い→ 線量率を正確に読むとき読み ÷ 真の値 = 1 − e−t/τ   1τ で 63%、2τ で 86%、3τ で 95%実務では「時定数の3倍待つ」と教わるが、85%でよいなら2倍で足りる「何%が必要か」で答えが変わるので、問題文の数字をよく読む
針はじわじわ真の値に近づく。1τ で63%、2τ で86%、3τ で95%。当てた瞬間の値は当てにならない。

サーベイメータの指示は、放射線場に入れた瞬間には正しい値を示しません。時定数 τ で決まる速さで、じわじわ真の値に近づいていきます。

n(t)n∞=1−e−t/τ\frac{n(t)}{n_\infty} = 1 - e^{-t/\tau}
経過時間到達する割合
1τ約 63%
2τ約 86%
3τ約 95%

実務では「時定数の3倍待つ」と教わることが多いのですが、問題文が何%を要求しているかで答えが変わります。

時定数の使い分けも押さえておきます。短くすると応答は速いがふらつくので、汚染の場所を探すときに向きます。長くすると安定するが応答が遅いので、線量率を正確に読むときに向きます。

表面汚染密度の計算

表面汚染密度の求め方表面汚染密度の求め方を直接法と間接法で比べた図。直接法は汚染面にサーベイメータを近づけて測る方法で、まず総計数率からバックグラウンドを引いて正味計数率を出し、次にカウント毎分をカウント毎秒に直すため60で割り、最後に機器効率と線源効率と入射窓面積の積で割る。例として3620から20を引いて3600カウント毎分すなわち60カウント毎秒、0.4かける0.5かける15で3.0、60割る3.0で20ベクレル毎平方センチメートルとなる。間接法はスミアろ紙でふき取って別の場所で測る方法で、直接法の割る項にさらにふき取り効率とふき取り面積が加わる。どちらも正味計数率を効率のかけ算で割るだけである。最大の失点はカウント毎分とカウント毎秒の取り違えで、ベクレルは毎秒なので必ず60で割ってから計算する。表面汚染密度:計数率を「効率」で割っていくだけ直接あてるか、ふき取ってから測るかで、割る効率が1つ増える直接法(じかに当てる)汚染面にサーベイメータを近づけて測る1正味計数率を出す総計数率 − バックグラウンド2cpm を cps に直す60 で割る(ここを忘れやすい)3効率と窓面積で割る機器効率 × 線源効率 × 入射窓面積As = (n − nb) ÷ (εi × εs × W)例:3,620 − 20 = 3,600 cpm = 60 cps0.4 × 0.5 × 15 = 3.060 ÷ 3.0 = 20 Bq/cm²間接法(ふき取ってから測る)スミアろ紙でふき取り、別の場所で測る1正味計数率を出す総計数率 − バックグラウンド2cpm を cps に直す60 で割る3さらに「ふき取り効率」でも割る割る項が1つ増えるのが直接法との違いAs = (n − nb) ÷ (εi × εs × F × A)F = ふき取り効率(0.1 程度)A = ふき取った面積(cm²)ふき取れなかった分を割り戻しているどちらも「正味計数率を、効率のかけ算で割る」だけ。式を覚えるより、割る項を数えるほうが速い最大の失点は cpm と cps の取り違え。Bq は毎秒なので、必ず 60 で割ってから計算する
どちらも「正味計数率を、効率のかけ算で割る」だけ。間接法は割る項が1つ増える(ふき取り効率)。Bq は毎秒なので、必ず 60 で割ってから計算する。

汚染検査の計算は、式を暗記するより「何で割るか」を数えるほうが速いです。

直接法(じかに当てる)

As=n−nbεi⋅εs⋅WA_s = \frac{n - n_b}{\varepsilon_i \cdot \varepsilon_s \cdot W}

nn:総計数率、nbn_b:バックグラウンド計数率、εi\varepsilon_i:機器効率、εs\varepsilon_s:線源計数効率、WW:入射窓面積です。

手順は3つ。① 正味計数率を出す → ② cpm を cps に直す(60で割る)→ ③ 効率と面積で割る。

②を飛ばすのが、この計算での最大の失点です。求める単位は Bq/cm² で、Bq は毎秒の単位だからです。

間接法(ふき取ってから測る)

スミアろ紙で拭き取り、別の場所で測る方法です。ふき取れなかった分を割り戻す必要があるので、割る項が1つ増えます。

As=n−nbεi⋅εs⋅F⋅AA_s = \frac{n - n_b}{\varepsilon_i \cdot \varepsilon_s \cdot F \cdot A}

FF がふき取り効率(0.1 程度)、AA がふき取った面積です。

個人被ばく線量計

個人被ばく線量計の比較3種類の個人被ばく線量計を比べた図。TLDは熱ルミネセンスを使い、加熱して読み出す。素材はフッ化リチウムで実効原子番号8.14と組織等価なためエネルギー依存性が最小だが、繰り返し読めない。蛍光ガラス線量計はラジオフォトルミネセンスを使い、紫外線レーザーで読み出す。素材は銀活性リン酸塩ガラスでフェーディングが小さく、繰り返し読める。OSLは光刺激ルミネセンスを使い、可視光レーザーで読み出す。素材は酸化アルミニウムで感度が高く、繰り返し読める。3つとも積算型なので線量率は測れない。スズやアルミニウムのフィルタを重ねる目的はエネルギー依存性の補正である。素子の実効原子番号が人体組織より大きいと光電効果が効きすぎて低エネルギーのX線を過大評価するため、フィルタで低エネルギー成分を削って応答を平坦にする。さらにフィルタごとの読みを比べると線種やエネルギーも推定でき、1センチメートル線量当量と70マイクロメートル線量当量を評価できる。個人被ばく線量計:読み出し方法で見分けるどれも「あとから読み出す」積算型。線量率(いまの値)は測れないTLD熱ルミネセンス読み出し加熱するLiF(実効原子番号 8.14)○ 組織等価で依存性が最小✗ 繰り返し読めない積算型(線量率は測れない)蛍光ガラス線量計ラジオフォトルミネセンス読み出し紫外線レーザー銀活性リン酸塩ガラス○ フェーディングが小さい○ 繰り返し読める積算型(線量率は測れない)OSL光刺激ルミネセンス読み出し可視光レーザーAl₂O₃○ 感度が高い○ 繰り返し読める積算型(線量率は測れない)Sn・Al のフィルタを重ねる目的は「エネルギー依存性の補正」素子の実効原子番号が人体組織より大きいと、光電効果(Z³ に比例)が効きすぎて低エネルギーのX線を過大評価してしまう→ フィルタで低エネルギー成分を削り、応答を平坦にするさらに、フィルタごとの読みを比べると線種やエネルギーも推定でき、1 cm 線量当量と 70 µm 線量当量を評価できる
読み出し方法で見分けるのがいちばん確実。TLD=加熱/蛍光ガラス=紫外線/OSL=可視光レーザー。フィルタの目的はエネルギー依存性の補正。

個人線量計はどれも積算型で、あとから読み出します。したがって線量率(いまの値)は測れません。

TLD蛍光ガラス線量計OSL
原理熱ルミネセンスラジオフォトルミネセンス光刺激ルミネセンス
読み出し加熱紫外線レーザー可視光レーザー
素材LiF など銀活性リン酸塩ガラスAl₂O₃
繰り返し読み出しできないできるできる
フェーディング大きめ小さい小さい

TLDとRPLDの読み出し方法を入れ替えた選択肢が定番の誤答です。TLDは熱(Thermo)、蛍光ガラスは紫外線と、名前から結びつけておくと間違えません。

LiF の実効原子番号は 8.14 で、人体組織(7.4)や空気(7.6)にきわめて近い値です。だから組織等価な線量計として、エネルギー依存性が最も小さくなります。

フィルタの目的

蛍光ガラス線量計やOSLの素子は、実効原子番号が人体組織より大きい(12〜13程度)ため、低エネルギーのX線を過大評価してしまいます。光電効果が Z3Z^3 に比例するからです。

そこで Sn・Al・Cu など原子番号の異なるフィルタを重ねます。低エネルギー成分がフィルタで削られるので、過大評価が打ち消され、応答が平坦になります。これがエネルギー依存性の補正です。

さらに、複数のフィルタの下の読みを比べることで、入射した放射線のおおよそのエネルギーや種類まで推定でき、1 cm 線量当量と 70 µm 線量当量の評価に使えます。

不均等被ばくの実効線量

放射線防護衣を着て業務を行う場合、体の部位によって被ばくが大きく違います。そこで複数の線量計を着けて、重みを付けて足し合わせます。

E=0.08 Ha+0.44 Hb+0.45 Hc+0.03 HmE = 0.08\,H_a + 0.44\,H_b + 0.45\,H_c + 0.03\,H_m

HaH_a が頭頸部、HbH_b が胸部・上腕部、HcH_c が腹部・大腿部、HmH_m が手指などです。

実際の問題では、着けた線量計の数に応じて式を組み替えます。防護衣の外(頸部)と内(腹部)の2か所なら、防護衣の外側の値を HaH_a に、内側の値を HbH_b と HcH_c の両方に当てはめる、という形になります。

まとめ

  • 計数はポアソン分布に従い、σ = √N。相対誤差 = 1/√N
  • 精度を2倍にするには計数を4倍にする
  • 平方根を取ってよいのは計数値 N だけ。計数率の標準偏差は √N ÷ t(N/t\sqrt{N/t} ではない)
  • バックグラウンドを引いても誤差は減らない。2乗して足す
  • サーベイメータは 1τ で63%、2τ で86%、3τ で95%。問題文が何%を要求しているかを読む
  • 時定数は短く=汚染を探す/長く=線量率を正確に読む
  • 表面汚染密度は正味計数率を効率のかけ算で割る。直接法は εi・εs・W、間接法はさらにふき取り効率と面積
  • Bq は毎秒なので、cpm は必ず 60 で割ってから計算する
  • 個人線量計はすべて積算型で、線量率は測れない
  • 読み出しは TLD=加熱/蛍光ガラス(RPL)=紫外線/OSL=可視光レーザー。蛍光ガラスとOSLは繰り返し読める
  • LiF の実効原子番号 8.14 は人体組織に近く、エネルギー依存性が最小
  • Sn・Al のフィルタの目的はエネルギー依存性の補正(フェーディングとは無関係)
  • 不均等被ばくは E = 0.08 Ha + 0.44 Hb + 0.45 Hc + 0.03 Hm。防護衣の内側の値をまとめて当てはめる

これで計測学シリーズは完結です。検出器の原理 → 線量の測定 → 測定値の扱い方という順で見てきましたが、共通していたのは「放射線そのものは測れないので、必ず何かに変換し、そのぶんを補正して戻す」という考え方でした。補正係数の名前を覚えるより、何を補っているのかをたどるほうが、結局は速い道になります。

過去問での問われ方は、過去問解説の記事一覧や国家試験まとめから確認できます。

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