ここまでで、放射線を捕まえる仕組みは見えました。しかし臨床で本当に知りたいのは、「患者の体が何グレイ受けたか」です。
ところが、電離箱が実際に測っているのは電荷(クーロン) にすぎません。そこから患者の吸収線量にたどり着くまでには、いくつもの換算と補正が挟まります。この道筋を一本の線でつなげられるようにするのが、今回のねらいです。
計算問題も多い分野ですが、式の丸暗記ではなく「何を何に翻訳しているか」で考えると、驚くほど見通しがよくなります。
測れる量から、知りたい量へ
照射線量(電荷)→ 空気カーマ(空気のエネルギー)→ 水吸収線量(体のエネルギー)と順に翻訳していく。掛ける係数はそれぞれ1つだけ。
照射線量 X
空気中にできた電荷の量そのものです。単位は C/kg(クーロン毎キログラム)。定義上、空気に対してだけ、光子に対してだけ使える量です。
空気カーマ K
空気が受け取ったエネルギーです。単位は Gy。照射線量から次の式で換算できます。
K=X⋅eW
ここで W値は、イオン対を1個つくるのに必要な平均エネルギーで、空気では 33.97 eV(試験では34 eVとして計算)。1個あたり33.97 eV かかるということは、1 C ぶんの電荷を作るには 33.97 J のエネルギーが要るということなので、W/e = 33.97 J/C になります。
つまり実務上は、照射線量に34を掛ければ空気カーマです。
水吸収線量 D
最終的にほしい量です。電離箱で測る場合、空洞の空気が受けた線量に、水と空気の質量衝突阻止能比を掛けます。理由は次の節で説明します。
電子平衡と壁の厚さ
壁を厚くすると、二次電子が増える方向とX線が減弱する方向の2つが同時に働く。だからちょうどよい厚さでピークになり、それ以降はゆるやかに下がる。
電離箱の空洞を電離しているのは、光子そのものではなく、壁で叩き出された二次電子です。ここが分かると、壁厚の話がすっきりします。
① 壁が薄すぎると足りない … 二次電子が十分に供給されません。壁厚を増やすほど電子が増えていき、壁厚が二次電子の最大飛程に達したところで頭打ちになります。この状態が電子平衡(荷電粒子平衡・CPE) です。
② 壁が厚すぎると減ってしまう … 壁そのものがX線を減弱させるので、空洞に届く光子が減ります。
この2つの綱引きの結果、収集電荷は「立ち上がって → ピーク → ゆるやかに下降」という形になります。実際の測定は、このピーク(電子平衡が成立する壁厚) で行います。エネルギーが高いほど二次電子の飛程が長いので、必要な壁厚も厚くなります。
同じ理屈が、放射線治療のビルドアップ領域にもそのまま当てはまります。体表から dmax までは電子が積み上がっている途中で、まだ電子平衡が成立していないのです。
ブラッグ・グレイの空洞理論
掛ける係数は空洞の大きさで決まる。空洞を通っているのが「電子」なら質量衝突阻止能比、「光子」なら質量エネルギー吸収係数比。
電離箱が測るのは「空洞内の空気が受けた吸収線量」です。これを「水の吸収線量」に翻訳しなければなりません。
小さい空洞(ブラッグ・グレイ空洞)の場合 … 空洞が二次電子の飛程よりずっと小さいので、周りの水から来た二次電子が、そのまま空洞を突き抜けます。空洞の内外で電子フルエンスが等しいわけです。
同じ電子が同じだけ通っているなら、線量の比は、その電子がどれだけエネルギーを落とすかの比になります。これが質量衝突阻止能比です。
Dwater=Dair×(ρS)airwater
大きい空洞の場合 … 空洞の中で光子そのものが相互作用します。この場合は光子フルエンスが等しいので、質量エネルギー吸収係数比を掛けます。
治療で使う指頭形電離箱は小さい空洞なので、水吸収線量には質量衝突阻止能比を使います。
標準計測法12:読み値から水吸収線量まで
補正係数は「何を補っているか」で3つに分けると混乱しない。環境(自分で計算)・測定器側(自分で測る)・擾乱(表から読む)。
実際の水吸収線量は、電位計の読み値 M に順番に係数を掛けて求めます。
Dw=M⋅kTP⋅kpol⋅ks⋅ND,w⋅kQ
温度気圧補正 kTP
電離箱の空洞は外気とつながっているので、その日の温度と気圧で、中の空気の量(質量)が変わってしまいます。基準条件に直すのがこの補正です。
kTP=273.2+22.0273.2+T⋅P101.33
温度は測定値が分子、気圧は基準値が分子。ここが唯一の暗記どころです。理由も押さえておくと間違えません。気圧が下がる(空気が薄い)ほど電離量が減るので、補正係数は大きくなるはず——だから P は分母です。温度が上がる(空気が膨張して薄くなる)ときも同じなので、T は分子です。
測定器側の補正
- 極性効果補正 kpol … 印加電圧の極性を変えると読みが変わってしまう分。両極性で測って求めます
- イオン再結合補正 ks … 生じたイオンが集められる前に再結合してしまう分。印加電圧を2段階変えて測る(2点電圧法) で求めます。電離密度が高いほど再結合しやすいので、パルスビームや高線量率で大きくなります
擾乱(じょうらん)補正
そこに電離箱を置いたこと自体で、本来の場が乱されてしまう分を補います。代表は4つ。
- 空洞補正 … 空気の空洞を置いたことで電子の流れが乱れる分
- 壁補正 … 壁の材質が水と違う分
- 中心電極補正 … 中心電極があることによる分
- 変位補正 … 空洞のぶん媒質が置き換わって、実効的な測定点がずれる分
校正定数とトレーサビリティ
水吸収線量校正定数 ND,w は、国家標準機関(日本では産総研)にトレーサブルな標準計測室で、⁶⁰Co γ線を使って実測して与えられる値です。ここが校正の連鎖の起点になります。
線質変換係数 kQ は、実際に使うビームの線質が ⁶⁰Co と違う分を補正するもので、プロトコルの表から読む値です。実測するものではありません。
光子線の基準条件
標準計測法12の水吸収線量計測の基準条件も、そのまま出題されます。
| 光子線 | 電子線 |
|---|
| 電離箱 | 円筒形(ファーマ形) | 平行平板形 |
| 校正深 | 水中10 cm(線質によらない) | zref=0.6R50−0.1(線質による) |
| ファントム | 水ファントム | 水ファントム |
| セットアップ | SSD法・SAD法のどちらでもよい | SSD法 |
光子線と電子線が対になっているので、表にして並べると混同しません。固体ファントムは日常のQAには便利ですが、絶対線量の基準計測には認められていません。
半価層の測定
診断領域では、X線の線質を表す指標として半価層を使います。線量が半分になる吸収体(アルミニウムなど)の厚さです。
押さえるべき点は3つ。
- 半価層の測定に使うのは電離箱線量計。エネルギー依存性が小さく、線量を正確に測れるからです
- 管電圧を上げるとX線は硬くなり、半価層は大きくなります
- 連続スペクトルのX線では、通すほど軟らかい成分が削られて硬くなる(線質硬化)ため、第1半価層 < 第2半価層になります。この比を均等度といい、1に近いほど単色に近い
まとめ
- 照射線量 X(C/kg・空気の電荷)→ 空気カーマ K(Gy)→ 水吸収線量 D(Gy)と順に翻訳する
- W値=イオン対1個をつくる平均エネルギー。空気で 33.97 eV。W/e = 33.97 J/C なので、照射線量に34を掛ければ空気カーマ
- 空洞を電離しているのは壁で生まれた二次電子。壁厚を増やすと電子が増える方向と減弱する方向が綱引きし、電子平衡が成立する厚さでピークになる
- ビルドアップ領域=電子平衡が成立するまでの深さ
- 小さい空洞(ブラッグ・グレイ)は電子フルエンスが等しい → 質量衝突阻止能比
- 大きい空洞は光子フルエンスが等しい → 質量エネルギー吸収係数比
- 補正係数は3分類。環境(温度気圧 kTP・自分で計算)/測定器側(極性効果・イオン再結合・自分で測る)/擾乱(空洞・壁・中心電極・変位・表から読む)
- kTP は温度が測定値/気圧が基準値が分子。基準条件は 22.0 ℃・101.33 kPa
- トレーサビリティが必要なのは水吸収線量校正定数 ND,w だけ。⁶⁰Co γ線で実測して与えられる
- 線質変換係数 kQ は表から読む値
- 光子線の基準条件は円筒形電離箱・校正深10 cm(線質によらない)・水ファントム・SSD法かSAD法
- 半価層は電離箱線量計で測る。管電圧を上げると大きくなる。第1半価層 < 第2半価層(線質硬化)
次回は計測学シリーズの最終回、測定値の扱い方です。計数の統計変動、サーベイメータの時定数、表面汚染密度の計算、そして個人被ばく線量計の使い分けを扱います。
過去問での問われ方は、過去問解説の記事一覧や国家試験まとめから確認できます。