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放射線計測学

シンチレーション検出器と半導体検出器(スペクトルの読み方とエネルギー分解能)

前回は、気体の電離を使う検出器を見ました。今回は残る2つ——発光を使うシンチレーション検出器と、固体の中で直接電気を作る半導体検出器です。

この2つは、核医学のガンマカメラやPET、そしてγ線のスペクトル測定を支えている主役です。そして国家試験では、スペクトルのグラフを読ませる問題が繰り返し出ます。ピークの名前を暗記するのではなく、どこに出るかを計算で確かめられるようにしておくのが近道です。

シンチレーション検出器:いったん光に変える

シンチレーション検出器の仕組みシンチレーション検出器の流れを示した図。入射したγ線がシンチレータに当たると弱い光が出る。その光が光電陰極に当たって電子に変わり、光電子増倍管のダイノードで段階的に増やされて全体で約100万倍になり、エネルギーに比例した高さの電気パルスとして出力され、波高分析器へ送られる。最近は光電子増倍管のかわりにSiPMを使うことも増えており、小型で低電圧、磁場の影響を受けないためPET/MRIが実現した。光電子増倍管はシンチレーション検出器だけの部品で、比例計数管にも半導体検出器にも不要である。どちらも電荷を直接集めるので光に変える段階がない。シンチレーション検出器:いったん「光」に変えてから測る結晶が出すごく弱い光を、光電子増倍管が100万倍に増幅して電気信号にするγ線シンチレータNaI(Tl) など放射線 → 光光光電陰極光 → 電子光電子増倍管(ダイノード)1段ごとに電子が増え、全体で約100万倍電気パルス高さ ∝ エネルギー→ 波高分析器へ最近は光電子増倍管のかわりに SiPM(シリコン光電子増倍素子)を使うことも増えている小型・低電圧・磁場の影響を受けない。MRIと同時に使えるPET(PET/MRI)はこれで実現したポイント:光電子増倍管は「シンチレーション検出器だけ」の部品比例計数管にも半導体検出器にも不要。どちらも電荷を直接集めるので、光に変える段階がない
放射線 → 光 → 電子 → 増幅 → 電気パルス、という順に変換していく。光電子増倍管はシンチレーション検出器だけの部品で、比例計数管にも半導体検出器にも不要。

シンチレータは、放射線が当たるとごく弱い光を出す物質です。この光を光電子増倍管(PMT) に導きます。

PMTの中では、まず光電陰極で光が電子に変わります。その電子をダイノードという電極に次々ぶつけていくと、1段ごとに電子が増えていき、全体で約100万倍に増幅されます。最終的に、入射エネルギーに比例した高さの電気パルスが得られます。

近年は、PMTのかわりに SiPM(シリコン光電子増倍素子)を使うことも増えました。小型・低電圧で、磁場の影響を受けないのが利点で、MRIと同時に撮影できるPET(PET/MRI) はこれによって実現しました。

シンチレータの使い分け

シンチレータ種類特徴おもな用途
NaI(Tl)無機発光量が大きく安価。潮解性があるガンマカメラ、サーベイメータ
CsI(Tl)無機発光量が大きい。潮解性はわずかX線検出器(FPD)、CT
BGO無機実効原子番号が高く阻止能が大。発光量は小PET
LSO・LYSO・GSO無機減衰時間が短い(速い)PET(時間分解能が要る)
プラスチック有機安価・大面積にできる。β線向き表面汚染モニタ、体表面汚染検査
液体シンチレータ有機試料を溶かし込める。低エネルギーβ線向き³H・¹⁴C のバイオアッセイ

覚えておくべき対比が2つあります。

無機 vs 有機 … 無機は原子番号が高く、γ線の測定に向く。かわりに減衰時間が長い(遅い)。有機は原子番号が低く、β線向きで、減衰時間が短い(速い)。

NaI(Tl)の潮解性 … NaI(ヨウ化ナトリウム)は塩の一種なので、空気中の水分を吸って溶けてしまいます。だからアルミ容器に密封して使い、容器に傷や隙間ができると結晶が白濁して性能が落ちます。取り扱いで最も注意すべき点です。

γ線スペクトルの読み方

γ線エネルギースペクトルの読み方1.33メガ電子ボルトのγ線が1本だけの場合のエネルギースペクトルを示したグラフ。横軸がエネルギー、縦軸が計数である。いちばん高く鋭いのが1.33メガ電子ボルトの光電ピークで、入射エネルギーがすべて吸収されたものである。その手前に平坦なコンプトン連続部が広がり、1.12メガ電子ボルトのコンプトン端で肩のように急に落ちる。これは散乱角180度のとき電子が受け取る最大エネルギーにあたる。さらに低いほうに、外で180度散乱された光子が入ってきた後方散乱ピークが0.21メガ電子ボルト付近にある。0.82メガ電子ボルトのエスケープピークは、電子対生成でできた0.511メガ電子ボルトの消滅放射線が検出器の外へ逃げたときに現れ、光電ピークから0.511を引いた位置にある。なおγ線が2本同時に入ると、その和の位置にサムピークが現れる。γ線スペクトルの読み方(1.33 MeV が1本の例)ピークの位置は計算で確かめられる。名前より「どこに出るか」で覚える00.250.50.751.01.251.5エネルギー(MeV)計数後方散乱ピーク0.21 MeVエスケープピーク0.82 MeVコンプトン端1.12 MeV光電ピーク1.33 MeVコンプトン連続部光電ピーク(全エネルギー吸収ピーク)入射エネルギーがすべて吸収されたγ線のエネルギーそのものコンプトン端散乱角180°のとき電子が受け取る最大エネルギー連続部が急に落ちる「肩」後方散乱ピーク外で180°散乱された光子が入ってきたもの低エネルギー側の小さな山エスケープピーク電子対生成でできた0.511 MeVが外へ逃げた光電ピーク −0.511 MeV※ この図はγ線が1本だけの例。2本が同時に入ると、その和の位置に「サムピーク」が現れる
ピークの位置は計算で確かめられる。光電ピークが入射エネルギーそのもの、エスケープピークはそこから0.511 MeV(または1.022 MeV)を引いた位置。

スペクトル問題は、目印になるピークの正体をエネルギーの値から確定させていくと迷いません。

光電ピーク(全エネルギー吸収ピーク) … 入射したγ線のエネルギーがすべて検出器に吸収されたとき。入射エネルギーそのものの位置に、いちばん鋭く高いピークとして出ます。

コンプトン端 … コンプトン散乱で、光子が180°散乱されたとき、電子が受け取るエネルギーが最大になります。その最大値の位置になだらかな肩ができます。光電ピークより低いところです。

Eコンプトン端=E0⋅2E0mc21+2E0mc2E_{\text{コンプトン端}} = \frac{E_0 \cdot \dfrac{2E_0}{m c^2}}{1 + \dfrac{2E_0}{m c^2}}

後方散乱ピーク … 検出器の外側(遮へい体や容器)で180°散乱された光子が入ってきたもの。低エネルギー側の小さな山として現れます。

エスケープピーク … 入射光子が検出器の中で電子対生成を起こすと、消滅放射線(0.511 MeV)が2本できます。その1本が検出器の外へ逃げると、逃げた分だけ足りないピークが現れます。

Eシングルエスケープ=E0−0.511 MeVE_{\text{シングルエスケープ}} = E_0 - 0.511\ \text{MeV}

2本とも逃げればダブルエスケープピーク(E0−1.022E_0 - 1.022 MeV)です。

サムピーク … 2本の光子が同時に入って足し合わされたもの。2本のエネルギーの和の位置に出ます。

半導体検出器:光に変えず、いきなり電気にする

半導体検出器の仕組み半導体検出器の断面を示した図。逆バイアスをかけて作った空乏層に放射線が入ると、電子と正孔の対ができ、電子はプラス電極へ、正孔はマイナス電極へ移動してそのまま電流になる。光に変える段階がないのが特徴で、気体検出器の固体版と考えるとよい。1対つくるのに必要なエネルギーεはシリコンで3.6電子ボルト、ゲルマニウムで2.9電子ボルトである。長所はエネルギー分解能が非常に高いこと、応答が速く計数率特性がよいこと、光電子増倍管が不要で小型にできること。短所は放射線損傷で劣化すること、ゲルマニウムは液体窒素冷却が必要なこと、大きな結晶を作りにくいこと。種類はシリコンが線量計やX線検出器やSiPMに使われ室温で動作し、高純度ゲルマニウムはγ線スペクトル測定の最高峰だが液体窒素冷却が必要で、テルル化カドミウム系は半導体ガンマカメラや小型機に使われ室温で動作する。半導体検出器:光に変えず、いきなり電気にする結晶の中で電子と正孔の対ができ、そのまま電極に集まる。「気体検出器の固体版」と考えるとよい+電極−電極空乏層(逆バイアスをかけて作る)放射線−+−+−+−+電子は+へ、正孔は−へ → そのまま電流になる1対つくるのに必要なエネルギー ε は Si 3.6 eV・Ge 2.9 eV半導体検出器の性格○ エネルギー分解能が非常に高い○ 応答が速く計数率特性がよい○ 小型にできる(PMTが不要)✗ 放射線損傷で劣化する✗ Ge は液体窒素冷却が必要✗ 大きな結晶を作りにくいSiシリコン線量計・X線検出器・SiPM室温で動作Ge高純度ゲルマニウムγ線スペクトル測定の最高峰液体窒素で冷却が必要CdTe / CZTテルル化カドミウム系半導体ガンマカメラ・小型機室温で動作
逆バイアスで作った空乏層に放射線が入ると、電子と正孔の対ができて、そのまま電極に集まる。気体検出器の固体版と考えると分かりやすい。

半導体検出器の原理は、実は気体検出器とよく似ています。気体のかわりに固体の結晶を使い、イオン対のかわりに電子-正孔対を作るだけです。光に変える段階がありません。

pn接合に逆バイアスをかけると、キャリアのない空乏層ができます。ここが検出部です。放射線が通ると電子-正孔対ができ、電子は+電極へ、正孔は−電極へ移動して電流になります。

1対つくるのに必要なエネルギー ε は、Si で約 3.6 eV、Ge で約 2.9 eV です。気体のW値(約34 eV)の10分の1以下という点が、あとで効いてきます。

種類と使い分け

  • Si(シリコン) … 線量計、X線検出器、SiPM。室温で動作
  • 高純度Ge(ゲルマニウム) … γ線スペクトル測定の最高峰。ただし液体窒素での冷却が必要
  • CdTe・CZT(テルル化カドミウム系) … 半導体ガンマカメラ、小型機。室温で動作

半導体の弱点も押さえておきます。放射線損傷——結晶格子に欠陥が蓄積して性能が劣化する——は、半導体検出器の宿命的な欠点です。

なぜ半導体はエネルギー分解能が高いのか

エネルギー分解能の違いの理由エネルギー分解能の差が信号の粒の数で決まることを示した図。左は1メガ電子ボルトのエネルギーで作られる粒の数で、気体検出器はW値34電子ボルトから約2万9千個、ヨウ化ナトリウムと光電子増倍管の組合せでは実質約1万個、シリコンはε値3.6電子ボルトから約28万個、ゲルマニウムはε値2.9電子ボルトから約34万個である。粒がN個できるとばらつきは√Nで、相対的なばらつきは1のN分の√Nになる。右は同じ光電ピークを3つの検出器で測ったときの形を重ねて示したもので、ヨウ化ナトリウムは約7から10パーセントで幅の広いなだらかな山、テルル化カドミウム系は約5から6パーセントでやや細い山、高純度ゲルマニウムは約0.2パーセントで針のように細い。ピークが細く鋭いほどエネルギー分解能がよい。核種を正確に見分けたいときは高純度ゲルマニウム、たくさん安く大きく検出したいときはシンチレータ、小型で高分解能がほしいときはCdTeやCZTを使う。エネルギー分解能の差は「信号の粒の数」で決まる1個つくるのに必要なエネルギーが小さいほど、たくさんできる → 統計のばらつきが小さい1 MeV で作られる「信号の粒」の数気体(W=34 eV)約 2.9 万個NaI(Tl)+PMT(実質)約 1 万個Si(ε=3.6 eV)約 28 万個Ge(ε=2.9 eV)約 34 万個粒が N 個できると、ばらつきは √N。相対的なばらつきは 1/√N同じ光電ピークを測ると、形がこれだけ違う※ 中央の点線がγ線のエネルギー。高さをそろえて幅だけを比べているNaI(Tl)約 7〜10%CdTe・CZT約 5〜6%高純度 Ge約 0.2%ピークが細く鋭いほど、エネルギー分解能がよい(=%の数字が小さい)核種を正確に見分けたい(スペクトル測定)→ 高純度 Ge。ただし液体窒素で冷やす手間がかかるたくさん・安く・大きく検出したい(ガンマカメラ・PET)→ シンチレータその中間で、小型・高分解能がほしい(半導体ガンマカメラ)→ CdTe・CZT※ 分解能の数値は測るエネルギーで変わる。ここは国家試験で問われる目安
1個つくるのに必要なエネルギーが小さいほど、粒がたくさんできる。粒が N 個なら、ばらつきは √N。数が多いほど相対的なばらつきが小さくなり、ピークが細く鋭くなる。

ここが半導体検出器のいちばん大事な話です。

放射線のエネルギーは、検出器の中で信号の粒(イオン対・光電子・電子正孔対)に変換されます。この粒の数には統計的なばらつきがあり、粒が NN 個できるとき、ばらつきはおよそ N\sqrt{N}、相対的なばらつきは 1/N1/\sqrt{N} になります。

つまり、粒がたくさんできる検出器ほど、ピークが細く鋭くなります。

1 MeV のエネルギーで作られる粒の数を比べてみます。

検出器1個つくるのに必要なエネルギー1 MeV でできる数
気体W = 約 34 eV約 2.9 万個
NaI(Tl)+PMT実質的に約 100 eV約 1 万個(最も少ない)
Siε = 3.6 eV約 28 万個
Geε = 2.9 eV約 34 万個(最も多い)

結果として、エネルギー分解能はこうなります。

  • NaI(Tl) … 約 7〜10%
  • CdTe・CZT … 約 5〜6%
  • 高純度Ge … 約 0.2%

なお分解能の数値は、測るエネルギーによって変わります(低いエネルギーほど悪くなる)。ここに挙げたのは国家試験で問われる目安の値です。

Geが桁違いに優れているのは、ε値が小さくて粒がたくさんできるからです。逆にシンチレータが劣るのは、光に変える段階で数が減ってしまう(PMTの量子効率は20%程度)ためです。

まとめ

  • シンチレーション検出器=放射線 → 光 → 電子 → 増幅 → 電気パルス。光電子増倍管は約100万倍に増幅する
  • 光電子増倍管はシンチレーション検出器だけの部品。比例計数管にも半導体検出器にも不要
  • SiPMは小型・低電圧で磁場の影響を受けない。だからPET/MRIが実現した
  • シンチレータは無機=原子番号が高くγ線向き・減衰時間が長い、有機=原子番号が低くβ線向き・減衰時間が短い
  • NaI(Tl) は潮解性がある(塩なので水分を吸う)。発光量が大きく安価なのでガンマカメラの主役
  • BGOは阻止能が大きい、LSO・LYSOは速い。どちらもPET用
  • スペクトルは光電ピーク=入射エネルギーそのもの、コンプトン端=180°散乱で電子が得る最大エネルギー、後方散乱ピーク=外で180°散乱された光子
  • エスケープピーク=光電ピーク − 0.511 MeV(ダブルなら −1.022 MeV)、サムピーク=2本の和
  • 半導体検出器=空乏層で電子-正孔対を作り、そのまま集める。光に変えない
  • ε値は Si 3.6 eV・Ge 2.9 eV。気体のW値(34 eV)の10分の1以下
  • 粒が多いほどばらつきが小さい(相対ばらつき = 1/N1/\sqrt{N})から、Geのエネルギー分解能は約0.2% と桁違いによい
  • CZTは室温動作・小型・高分解能。冷却が必要なのは高純度Geだけ
  • 半導体の弱点は放射線損傷と、大きな結晶を作りにくいこと

次回は、いよいよ線量そのものの測定です。照射線量から空気カーマへの換算、ブラッグ・グレイの空洞理論、標準計測法12の基準条件と各種の補正係数を扱います。

過去問での問われ方は、過去問解説の記事一覧や国家試験まとめから確認できます。

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