拡散強調画像(DWI)とb値の基礎
拡散強調画像(DWI: Diffusion Weighted Image)は、脳梗塞の超急性期診断をはじめ、いまや臨床で欠かせない撮像法です。そして認定試験でも頻出。その中心にあるのが b値(b-value) です。
この記事では「b値とは何を表すのか」「上げると画像はどう変わるのか」を、用語を噛み砕いて整理します。
そもそも「拡散」とは
体内の水分子は、静止しているように見えても、温度に応じて細かくランダムに動いています(ブラウン運動)。この水分子の動きやすさ=拡散です。
- 水分子が自由に動ける場所(例:自由水)→ 拡散が大きい
- 水分子の動きが制限される場所(例:細胞が密に詰まった組織、細胞性浮腫)→ 拡散が小さい(制限)
DWIは、この「拡散の大小」を画像のコントラストに変換したものです。
b値とは何か
b値は、「どれくらい強く拡散を強調するか」を決める撮像パラメータです。単位は s/mm²。
DWIでは、180°パルスの前後に一対の傾斜磁場(MPG: motion probing gradient)をかけます。このとき、
- 傾斜磁場の強さ
- 印加する時間(幅)
- 一対の傾斜磁場の間隔
これらをまとめて1つの指標にしたものが b値です。傾斜磁場を強く・長くかけるほど b値は大きくなります。
式で書くと、b値は次のように表されます(Stejskal–Tanner の式)。
- :磁気回転比(核に固有の定数)
- :傾斜磁場の強さ
- :傾斜磁場を印加する時間(幅)
- :一対の傾斜磁場の間隔
細かい式を暗記する必要はありませんが、「(強さ)や (時間)を大きくすると b値が大きくなる」という関係だけ押さえておけば十分です。
b値を上げると画像はどう変わるか
| b値 | 拡散の強調 | 信号 | SNR |
|---|---|---|---|
| 低い(例:0) | 弱い(ほぼT2像に近い) | 高い | 高い |
| 高い(例:1000) | 強い | 全体に低下、拡散制限部が相対的に高信号 | 低下 |
ポイントは2つです。
- b値が高いほど拡散強調が強くなる(拡散の差がコントラストに出やすい)。
- ただし b値を上げるほど全体の信号は下がり、SNRは低下する。むやみに上げればよいわけではなく、目的の組織・部位で適切な値を選びます。
なお、頭部では b=1000 s/mm² 前後がよく用いられます(部位・施設・装置により設定は異なります)。
ADC(見かけの拡散係数)との関係
DWIの高信号は「本当に拡散が制限されているのか」「単にもとのT2信号が高いだけ(後述のT2 shine-through)」の区別がつきにくいことがあります。これを定量的に評価するのが ADC(Apparent Diffusion Coefficient:見かけの拡散係数) です。
DWIの信号は、b値が大きくなるにつれて次のように減衰します。
- :そのb値での信号強度
- :b=0 のときの信号(拡散を強調していない状態)
- :見かけの拡散係数
この式から、ADCが大きい(自由に拡散する)ほど、b値を上げたときに信号が急激に下がることがわかります。逆に拡散が制限されている(ADCが小さい)部分は、高いb値でも信号が残る=DWIで高信号に見えます。
- 異なる2つ以上のb値で撮像し、信号の減衰具合からADCを計算します。
- その値を画像化したものが ADCマップ。
- 拡散が制限されている部分は ADC が低下します(ADCマップでは低信号=暗く写る)。
急性期脳梗塞の典型像:DWIで高信号、ADCマップで低信号。この組み合わせが「真の拡散制限」を示す手がかりになります。
T2 shine-through(T2 透過効果)
DWIはベースにT2強調の要素を含みます。そのため、もともとT2で高信号の病変が、拡散制限がなくてもDWIで高信号に見えてしまうことがあります。これが T2 shine-through です。
- 見分け方:T2 shine-throughでは ADCマップが低下しない(むしろ高いことが多い)。
- だからこそ、DWIは ADCマップとセットで読むことが大切です。
試験で問われやすいポイント
- b値の単位(s/mm²)と、「大きいほど拡散強調が強い」という関係。
- b値を上げると SNRが低下すること。
- ADCは 複数のb値から求め、拡散制限でADCは低下すること。
- T2 shine-through の概念と、ADCマップで見分けること。
まとめ
- b値 = 拡散をどれだけ強調するかのパラメータ(単位 s/mm²)。
- b値を上げる → 拡散強調が強まるが、SNRは下がる。
- ADCマップを併用して、真の拡散制限か T2 shine-through かを見分ける。
次回以降、ADCの計算や各部位の代表的b値など、個別の論点も掘り下げていきます。