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MRI

拡散強調画像(DWI)とb値の基礎

拡散強調画像(DWI: Diffusion Weighted Image)は、脳梗塞の超急性期診断をはじめ、いまや臨床で欠かせない撮像法です。そして認定試験でも頻出。その中心にあるのが b値(b-value) です。

この記事では「b値とは何を表すのか」「上げると画像はどう変わるのか」を、用語を噛み砕いて整理します。

そもそも「拡散」とは

体内の水分子は、静止しているように見えても、温度に応じて細かくランダムに動いています(ブラウン運動)。この水分子の動きやすさ=拡散です。

  • 水分子が自由に動ける場所(例:自由水)→ 拡散が大きい
  • 水分子の動きが制限される場所(例:細胞が密に詰まった組織、細胞性浮腫)→ 拡散が小さい(制限)

DWIは、この「拡散の大小」を画像のコントラストに変換したものです。

自由拡散と制限拡散の違い 同じ時間に水分子が動いた軌跡と到達範囲を比較した図。自由水では分子がジグザグに動いて広い範囲(大きな円)に到達するのに対し、細胞が密な組織では細胞に囲まれて狭い範囲(小さな円)しか動けないことを示す。 自由水(拡散が大きい) 制限拡散(細胞が密)

分子が広い範囲に到達 → 拡散 大 狭い範囲しか動けない → 拡散 小

図A:水分子の動き(軌跡)と到達範囲のイメージ。黒点がスタート位置。自由水では広く拡散し、細胞(灰色)が密だと動ける範囲が制限される。

b値とは何か

b値は、「どれくらい強く拡散を強調するか」を決める撮像パラメータです。単位は s/mm²

DWIでは、180°パルスの前後に一対の傾斜磁場(MPG: motion probing gradient)をかけます。このとき、

  • 傾斜磁場の強さ
  • 印加する時間(幅)
  • 一対の傾斜磁場の間隔

これらをまとめて1つの指標にしたものが b値です。傾斜磁場を強く・長くかけるほど b値は大きくなります。

式で書くと、b値は次のように表されます(Stejskal–Tanner の式)。

b=γ2G2δ2(Δδ3)b = \gamma^2 \, G^2 \, \delta^2 \left( \Delta - \frac{\delta}{3} \right)
  • γ\gamma:磁気回転比(核に固有の定数)
  • GG:傾斜磁場の強さ
  • δ\delta:傾斜磁場を印加する時間(幅)
  • Δ\Delta:一対の傾斜磁場の間隔

細かい式を暗記する必要はありませんが、「GG(強さ)や δ\delta(時間)を大きくすると b値が大きくなる」という関係だけ押さえておけば十分です。

b値を上げると画像はどう変わるか

b値拡散の強調信号SNR
低い(例:0)弱い(ほぼT2像に近い)高い高い
高い(例:1000)強い全体に低下、拡散制限部が相対的に高信号低下

ポイントは2つです。

  1. b値が高いほど拡散強調が強くなる(拡散の差がコントラストに出やすい)。
  2. ただし b値を上げるほど全体の信号は下がり、SNRは低下する。むやみに上げればよいわけではなく、目的の組織・部位で適切な値を選びます。

なお、頭部では b=1000 s/mm² 前後がよく用いられます(部位・施設・装置により設定は異なります)。

ADC(見かけの拡散係数)との関係

DWIの高信号は「本当に拡散が制限されているのか」「単にもとのT2信号が高いだけ(後述のT2 shine-through)」の区別がつきにくいことがあります。これを定量的に評価するのが ADC(Apparent Diffusion Coefficient:見かけの拡散係数) です。

DWIの信号は、b値が大きくなるにつれて次のように減衰します。

S(b)=S0ebADCS(b) = S_0 \, e^{-b \cdot \mathrm{ADC}}
  • S(b)S(b):そのb値での信号強度
  • S0S_0:b=0 のときの信号(拡散を強調していない状態)
  • ADC\mathrm{ADC}:見かけの拡散係数

この式から、ADCが大きい(自由に拡散する)ほど、b値を上げたときに信号が急激に下がることがわかります。逆に拡散が制限されている(ADCが小さい)部分は、高いb値でも信号が残る=DWIで高信号に見えます。

  • 異なる2つ以上のb値で撮像し、信号の減衰具合からADCを計算します。
  • その値を画像化したものが ADCマップ
  • 拡散が制限されている部分は ADC が低下します(ADCマップでは低信号=暗く写る)。
b値と信号強度の関係 横軸にb値、縦軸に信号強度をとったグラフ。拡散制限(ADC小)の信号はゆるやかに減衰して高b値でも残り、自由拡散(ADC大)の信号は急激に減衰することを示す。 信号 b値 S₀ 拡散制限(ADC 小) 自由拡散(ADC 大)
図B:b値を上げると信号は減衰する。拡散制限(緑)はゆるやかに減り、高b値でも信号が残る=DWIで高信号に見える。

急性期脳梗塞の典型像:DWIで高信号、ADCマップで低信号。この組み合わせが「真の拡散制限」を示す手がかりになります。

T2 shine-through(T2 透過効果)

DWIはベースにT2強調の要素を含みます。そのため、もともとT2で高信号の病変が、拡散制限がなくてもDWIで高信号に見えてしまうことがあります。これが T2 shine-through です。

  • 見分け方:T2 shine-throughでは ADCマップが低下しない(むしろ高いことが多い)。
  • だからこそ、DWIは ADCマップとセットで読むことが大切です。

試験で問われやすいポイント

  • b値の単位(s/mm²)と、「大きいほど拡散強調が強い」という関係。
  • b値を上げると SNRが低下すること。
  • ADCは 複数のb値から求め、拡散制限でADCは低下すること。
  • T2 shine-through の概念と、ADCマップで見分けること。

まとめ

  • b値 = 拡散をどれだけ強調するかのパラメータ(単位 s/mm²)
  • b値を上げる → 拡散強調が強まるが、SNRは下がる
  • ADCマップを併用して、真の拡散制限か T2 shine-through かを見分ける。

次回以降、ADCの計算や各部位の代表的b値など、個別の論点も掘り下げていきます。

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