本文へスキップ
MRI

MRIの脂肪抑制(CHESS・STIR・Dixon)の違いと使い分け

脂肪は多くのシーケンスで高信号になり、病変を見えにくくすることがあります。そこで使うのが 脂肪抑制 です。方法は1つではなく、原理の異なる複数の手法を使い分けます。

この記事では代表的な CHESS・STIR・Dixon を整理します。

なぜ脂肪を抑制できるのか(2つの性質)

脂肪抑制は、脂肪と水の次の違いを利用します。

  1. 共鳴周波数が違う(化学シフト):脂肪と水は共鳴周波数がわずかに異なります(約3.5 ppm。周波数の差は磁場強度に比例し、1.5Tで約220 Hz)。→ 周波数で脂肪だけを狙える
  2. T1が違う:脂肪はT1が短い。→ 反転回復のタイミングで脂肪だけを消せる

この「周波数を使う」「T1を使う」が、脂肪抑制の二大原理です。

① 周波数選択的脂肪抑制(CHESS / FatSat)

脂肪の共鳴周波数だけを狙ったRFパルスで脂肪を励起し、信号を潰してから撮像します。

水と脂肪の共鳴周波数の違い 横軸を共鳴周波数としたスペクトルで、水と脂肪のピークが少し離れて立っている様子と、脂肪のピークだけを選んで励起するRFの帯域を示した図。 共鳴周波数 選択励起の帯域 脂肪
図1:水と脂肪は共鳴周波数が少し違う。脂肪のピークだけをRFで狙って潰すのがCHESS(周波数選択的脂肪抑制)。
  • 長所:水の信号を残したまま脂肪だけを抑制でき、特異性が高い。造影(Gd)とも併用しやすい。
  • 短所磁場の不均一に弱い。撮像範囲が広い場合や端では、抑制ムラが出やすい。

② STIR(短いTIの反転回復)

脂肪のT1が短いことを利用します。180°パルスで磁化を反転させ、脂肪の縦磁化がちょうどゼロになるタイミング(TI)で撮像すると、脂肪の信号が出ません。

脂肪が消えるTIは、おおよそ次の式で表されます。

TInull0.69×T1(脂肪)\mathrm{TI}_{\text{null}} \approx 0.69 \times T_{1(\text{脂肪})}

脂肪のT1は磁場強度が高いほど長くなるため、実際に使われるTIも磁場強度で変わります。一般的な目安は次のとおりです。

磁場強度STIRでよく使われるTIの目安
1.5T約 150〜170 ms
3T約 200〜250 ms

(装置・シーケンス・設定により異なります)

STIRの反転回復曲線 反転回復で縦磁化がマイナスからゼロを通ってプラスへ回復する様子。T1が短い脂肪は早くゼロを通過し、そのタイミング(TI)で撮像すると脂肪信号が消える。 +M₀ 0 −M₀ 時間(TI) 脂肪のTI ここで撮像=脂肪が消える 脂肪(T1が短い) 組織(T1が長め)
図2:STIRの反転回復。脂肪(オレンジ)はT1が短く早くゼロを通る。そのTIで撮像すると脂肪が消える。
  • 長所磁場の不均一に強く、広い範囲でも均一に抑制できる。
  • 短所:SNRが下がりやすい。また「T1が短いもの」を一律に抑えるため、Gd造影で短くなった組織や、亜急性期の出血なども抑制してしまうことがある(STIRはGd造影と相性が悪い)。

③ Dixon法(水と脂肪を分離する)

水と脂肪の信号の位相がそろう in-phase と、逆になる opposed-phase の画像を組み合わせ、計算で 水だけの画像脂肪だけの画像 を作り分けます。

  • 長所:1回の撮像で水画像・脂肪画像が同時に得られ、磁場不均一にも比較的強い。
  • 短所:撮像・後処理がやや複雑。

使い分けの目安

方法原理磁場不均一Gd造影
CHESS周波数弱い併用しやすい
STIRT1(反転回復)強い相性が悪い
Dixon位相(水脂肪分離)比較的強い併用しやすい

試験で問われやすいポイント

  • 脂肪抑制の二大原理=周波数(化学シフト)T1(反転回復)
  • CHESSは磁場不均一に弱い/STIRは磁場不均一に強い
  • STIRはGd造影と相性が悪い(短いT1を一律に抑制するため)。
  • STIRで脂肪が消えるのは TI ≈ 0.69 × T1(脂肪) のとき。

まとめ

  • 脂肪抑制は「周波数で狙う(CHESS)」「T1で狙う(STIR)」「水脂肪を分離(Dixon)」が代表。
  • それぞれ磁場不均一への強さや造影との相性が異なり、目的に応じて使い分ける
  • STIRは便利だが造影との併用に注意

次回は、シーケンスの基本である SE法(スピンエコー)とGRE法(グラディエントエコー) の違いを整理します。

← トップに戻る | MRIの記事一覧