MRIの脂肪抑制(CHESS・STIR・Dixon)の違いと使い分け
脂肪は多くのシーケンスで高信号になり、病変を見えにくくすることがあります。そこで使うのが 脂肪抑制 です。方法は1つではなく、原理の異なる複数の手法を使い分けます。
この記事では代表的な CHESS・STIR・Dixon を整理します。
なぜ脂肪を抑制できるのか(2つの性質)
脂肪抑制は、脂肪と水の次の違いを利用します。
- 共鳴周波数が違う(化学シフト):脂肪と水は共鳴周波数がわずかに異なります(約3.5 ppm。周波数の差は磁場強度に比例し、1.5Tで約220 Hz)。→ 周波数で脂肪だけを狙える。
- T1が違う:脂肪はT1が短い。→ 反転回復のタイミングで脂肪だけを消せる。
この「周波数を使う」「T1を使う」が、脂肪抑制の二大原理です。
① 周波数選択的脂肪抑制(CHESS / FatSat)
脂肪の共鳴周波数だけを狙ったRFパルスで脂肪を励起し、信号を潰してから撮像します。
- 長所:水の信号を残したまま脂肪だけを抑制でき、特異性が高い。造影(Gd)とも併用しやすい。
- 短所:磁場の不均一に弱い。撮像範囲が広い場合や端では、抑制ムラが出やすい。
② STIR(短いTIの反転回復)
脂肪のT1が短いことを利用します。180°パルスで磁化を反転させ、脂肪の縦磁化がちょうどゼロになるタイミング(TI)で撮像すると、脂肪の信号が出ません。
脂肪が消えるTIは、おおよそ次の式で表されます。
脂肪のT1は磁場強度が高いほど長くなるため、実際に使われるTIも磁場強度で変わります。一般的な目安は次のとおりです。
| 磁場強度 | STIRでよく使われるTIの目安 |
|---|---|
| 1.5T | 約 150〜170 ms |
| 3T | 約 200〜250 ms |
(装置・シーケンス・設定により異なります)
- 長所:磁場の不均一に強く、広い範囲でも均一に抑制できる。
- 短所:SNRが下がりやすい。また「T1が短いもの」を一律に抑えるため、Gd造影で短くなった組織や、亜急性期の出血なども抑制してしまうことがある(STIRはGd造影と相性が悪い)。
③ Dixon法(水と脂肪を分離する)
水と脂肪の信号の位相がそろう in-phase と、逆になる opposed-phase の画像を組み合わせ、計算で 水だけの画像 と 脂肪だけの画像 を作り分けます。
- 長所:1回の撮像で水画像・脂肪画像が同時に得られ、磁場不均一にも比較的強い。
- 短所:撮像・後処理がやや複雑。
使い分けの目安
| 方法 | 原理 | 磁場不均一 | Gd造影 |
|---|---|---|---|
| CHESS | 周波数 | 弱い | 併用しやすい |
| STIR | T1(反転回復) | 強い | 相性が悪い |
| Dixon | 位相(水脂肪分離) | 比較的強い | 併用しやすい |
試験で問われやすいポイント
- 脂肪抑制の二大原理=周波数(化学シフト) と T1(反転回復)。
- CHESSは磁場不均一に弱い/STIRは磁場不均一に強い。
- STIRはGd造影と相性が悪い(短いT1を一律に抑制するため)。
- STIRで脂肪が消えるのは TI ≈ 0.69 × T1(脂肪) のとき。
まとめ
- 脂肪抑制は「周波数で狙う(CHESS)」「T1で狙う(STIR)」「水脂肪を分離(Dixon)」が代表。
- それぞれ磁場不均一への強さや造影との相性が異なり、目的に応じて使い分ける。
- STIRは便利だが造影との併用に注意。
次回は、シーケンスの基本である SE法(スピンエコー)とGRE法(グラディエントエコー) の違いを整理します。