放射線防護は、たくさんの数値が並ぶので暗記科目に見えます。しかし実際には、ICRP(国際放射線防護委員会)が組み立てた1本の筋があり、それをたどるだけで大半の問題が解けます。
筋はこうです。まず「やるかどうか」を決め(正当化)、やると決めたら「できるだけ低く」抑え(最適化)、それでも超えてはいけない線を引く(線量限度)。そして、その線量を測るために吸収線量 → 等価線量 → 実効線量という2段階のかけ算が用意されています。
この記事では、この筋道を順に追います。法令そのものは「RI規制法と電離放射線障害防止規則」で扱っています。
防護の3原則:順番そのものが問われる
順番は 正当化 → 最適化 → 線量限度。最初に考えるのは正当化で、最適化ではない。
① 正当化
その被ばくは、害を上回る利益をもたらすか
やるかどうかを決める段階です。いちばん最初に考えます。「放射線被ばくを伴う状況では防護の最適化を最初に考慮しなければならない」という選択肢は、順番が逆で誤りです。
② 最適化
合理的に達成できる限り低く(ALARA:As Low As Reasonably Achievable)
ここで重要なのは「合理的に」の中身です。これは経済的・社会的要因を考慮するという意味で、無制限に線量を下げよという要求ではありません。この点がそのまま出題されます。
③ 線量限度の適用
個人が超えてはならない値
ただし、医療被ばくには適用しません(次の節で理由を説明します)。
この3原則の周りに、2つの「目安」があります。
- 線量拘束値 … 最適化のプロセスで使う上限の目安。線量限度より低い値に設定し、限度に達する前に手を打つために使います。「正当化のプロセスで考慮される」は誤りです
- DRL(診断参考レベル) … 医療被ばくの最適化のための目安。線量限度ではないので、超えても違法ではありません
医療被ばくだけ、線量限度がない
医療被ばくには線量限度を適用しない。患者本人が利益を受けるから。かわりに DRL で最適化する。
被ばくは3つに区分され、線量限度の扱いが違います。
| 区分 | 対象 | 線量限度 |
|---|
| 職業被ばく | 仕事として放射線を扱う人 | あり(100 mSv/5年 かつ 50 mSv/年) |
| 公衆被ばく | 一般の人 | あり(1 mSv/年) |
| 医療被ばく | 検査・治療を受ける患者 | なし |
医療被ばくだけ線量限度がありません。理由は明快で、患者本人が診断という直接の利益を受けるからです。もし限度を設けてしまうと、必要な検査ができなくなり、かえって患者の不利益になります。
そのかわりに用意されたしくみが DRL です。線量限度がない分野で、それでも線量が野放しにならないようにするための仕掛けだと理解してください。
なお、介助者や付き添いの被ばくは、線量限度ではなく線量拘束値で管理します。
吸収線量 → 等価線量 → 実効線量
かけ算は2段階。放射線加重係数は放射線の種類を、組織加重係数は組織の感受性を補正する。
線量には3つの段階があり、2回のかけ算でつながっています。
① 吸収線量 D(Gy)
その組織が吸収したエネルギーを質量で割った量です。単位が Gy なのはここだけです。
② 等価線量 HT(Sv)
HT=R∑wR⋅DT,R
吸収線量に放射線加重係数 wR を掛けます。同じ 1 Gy でも、α線のほうが人体への影響が大きい。その違いを補正するためです。組織・臓器ごとの量です。
③ 実効線量 E(Sv)
E=T∑wT⋅HT
等価線量に組織加重係数 wT を掛けて、全部足します。同じ 1 Sv でも、組織によってリスクが違うからです。全身をひとつの数字にまとめた量になります。
等価線量と実効線量はどちらも Sv なので、単位では区別できません。「臓器ごと」が等価線量、「全身をまとめた1つの値」が実効線量、と名前で覚えてください。
放射線加重係数:中性子だけが連続関数
ほかは一律の数値だが、中性子だけがエネルギーの連続関数。1 MeV 付近で最大の約 21 になる。
ICRP 2007年勧告(Publication 103)の放射線加重係数です。
| 放射線 | wR |
|---|
| 光子・電子・ミュー粒子 | 1 |
| 陽子・荷電パイ中間子 | 2 |
| α粒子・核分裂片・重イオン | 20 |
| 中性子 | エネルギーの連続関数 |
中性子だけが連続関数です。これが出題の核心になります。
中性子はエネルギーによって体内でのふるまいが大きく変わります。遅い中性子は捕獲され、速い中性子は弾性散乱で反跳陽子を作ります。だからひとつの数値では表せないわけです。グラフを実際に計算してみると、1 MeV 付近で最大の約 21 になり、それより低くても高くても下がります。
なお、陽子は 1990年勧告の 5 から 2 へ引き下げられています。
組織加重係数:合計はちょうど 1.00
合計は 0.72 + 0.08 + 0.16 + 0.04 = 1.00。問われるのは 1990年勧告からの入れ替わり。
ICRP 2007年勧告の組織加重係数です。
| wT | 組織 | 組織数 | 小計 |
|---|
| 0.12 | 赤色骨髄・結腸・肺・胃・乳房・残りの組織 | 6 | 0.72 |
| 0.08 | 生殖腺 | 1 | 0.08 |
| 0.04 | 膀胱・食道・肝臓・甲状腺 | 4 | 0.16 |
| 0.01 | 骨表面・脳・唾液腺・皮膚 | 4 | 0.04 |
小計を足すと 0.72 + 0.08 + 0.16 + 0.04 = 1.00 です。全身をもれなく重み付けしているので、当然そうなります。この検算を知っていると、覚え間違いに気づけます。
出題の狙いは1990年勧告(Publication 60)からの変更です。大きな入れ替わりが2つあります。
- 乳房:0.05 → 0.12(引き上げ)。乳癌のリスクが高く評価し直されました
- 生殖腺:0.20 → 0.08(引き下げ)。1990年勧告では最大でしたが、遺伝的影響のリスク評価が見直されました
したがって、大きい順に並べる問題の答えは、乳房 0.12 → 生殖腺 0.08 → 甲状腺 0.04 → 皮膚 0.01 になります。
実効線量は「計算で求める、集団向けの目安」
実効線量は直接は測れず、個人のリスク評価にも使わない。預託実効線量は成人50年、子どもは70歳まで。
実効線量は便利な量ですが、何のための量なのかを取り違えると失点します。
正しい理解
- 基準人(reference person)に対して定義された量。特定の個人のものではありません
- 計算で求める量。臓器ごとの等価線量に組織加重係数を掛けて合計します。線量計で直接は測れません(実測できるのは個人線量当量など)
- 確率的影響(発がん・遺伝性影響)のリスクを表します
- 内部被ばくの管理には預託実効線量を使います
よくある誤りの形
- 「特定の個人に対する線量である」→ 誤り
- 「線量計を用いて直接測定することができる」→ 誤り
- 「個人のリスク評価のための使用が推奨されている」→ 誤り。ICRP は推奨していません
- 「組織反応(確定的影響)のリスクの程度を表す」→ 誤り。確定的影響はしきい値のある局所の吸収線量・等価線量で管理します
預託実効線量は、体内に取り込んだ放射性物質からその後の生涯にわたって受け続ける線量を、摂取した年にまとめて計上するという考え方です。評価期間は2つあります。
- 成人 … 摂取から 50 年間(職業被ばくを想定した期間)
- 子ども … 摂取した年齢から 70 歳まで
子どもは年数ではなく「到達年齢」で決めるのがポイントです。5 歳で摂取したなら 65 年ぶんを見積もることになり、同じ量を取り込んでも子どものほうが預託線量は大きくなります。
試験で問われやすいポイント
| 論点 | 覚える形 |
|---|
| 防護の3原則の順番 | 正当化 → 最適化 → 線量限度 |
| 最初に考えるのは | 正当化 |
| ALARA の「合理的に」 | 経済的・社会的要因の考慮 |
| 線量拘束値 | 最適化で使う。線量限度より低い |
| 医療被ばく | 線量限度は適用しない。かわりに DRL |
| 職業被ばくの限度 | 100 mSv/5年 かつ 50 mSv/年 |
| 公衆被ばくの限度 | 1 mSv/年 |
| 単位が Gy なのは | 吸収線量だけ |
| 等価線量 | 吸収線量 × 放射線加重係数。臓器ごと |
| 実効線量 | 等価線量 × 組織加重係数 の合計。全身 |
| 連続関数の wR | 中性子だけ(1 MeV 付近で最大 約 21) |
| wR:光子・電子 | 1 / 陽子 2 / α・重イオン 20 |
| wT の合計 | 1.00 |
| wT 最大グループ | 0.12(骨髄・結腸・肺・胃・乳房・残りの組織) |
| 1990→2007 の変更 | 乳房 0.05 → 0.12/生殖腺 0.20 → 0.08 |
| 実効線量の性質 | 基準人の量・直接測れない・確率的影響 |
| 個人のリスク評価 | 推奨されていない |
| 預託実効線量 | 成人 50 年/子ども 70 歳まで |
まとめ
- 防護は正当化 → 最適化 → 線量限度の順。最初は正当化
- ALARA の「合理的に」は経済的・社会的要因の考慮。無制限に下げよという意味ではない
- 線量拘束値は最適化で使い、線量限度より低い
- 医療被ばくには線量限度がない。患者本人が利益を受けるから。かわりが DRL
- 線量は 吸収線量(Gy)→ 等価線量(Sv)→ 実効線量(Sv) の2段階のかけ算
- 放射線加重係数は中性子だけが連続関数。1 MeV 付近で最大の約 21
- 組織加重係数の合計は 1.00。乳房 0.12・生殖腺 0.08 の入れ替わりが頻出
- 実効線量は直接測れず、個人のリスク評価にも使わない
- 預託実効線量は成人 50 年、子どもは 70 歳まで
この分野のほかの記事