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基礎医学

消化器の解剖(肝区域・胆道の流れ・膵臓と後腹膜)

消化器の解剖は、丸暗記しようとすると名前の多さに押しつぶされます。でも、「血液や胆汁・膵液がどこを通るか」という流れと、「その臓器はお腹のどこに固定されているか」という位置の2本で追うと、CT・超音波・IVRの問題がまとめて解けるようになります。この記事では肝臓・胆道・膵臓を、その2本の軸で整理します。

肝臓:8つの区域に分ける理由

肝臓を外から見ると、右葉と左葉の大きな2つのかたまりに見えます。ですが、手術やカテーテル治療(TACEなど)で「ここだけ切る・ここだけ詰める」ときの単位は、この見た目の左右ではありません。クイノー分類という8つの区域(S1〜S8)が単位になります。

なぜ区域に分けられるのかというと、1つの区域が、それぞれ独立した「入口」と「出口」を持っているからです。

  • 入口 … 門脈・肝動脈・胆管の3本がセット(グリソン鞘)で、区域の中心から入る
  • 出口 … 肝静脈が、区域と区域の境目を通って出ていく

つまり1区域は「自分専用の血管と胆管を持った、独立採算のブロック」です。だから隣を巻き込まずに切除・塞栓できます。

肝臓のクイノー区域(S1〜S8)と血管 肝臓を区域ごとに分解した解剖図。中央に上下に走る血管があり、上の青い太い管が下大静脈、下の緑青の管が門脈。からだの右葉(図の左)は上段にS8・S7、下段にS5・S6。中央の下大静脈のわきにあるのが尾状葉S1。中央右の大きなブロックが内側区域S4、右端の外側区域が上S2・下S3。各区域が専用の血管と胆管を持つ独立ブロックとして描かれている。 S8 S7 S5 S6 S1 S4 S2 S3 下大静脈 門脈
図1:肝臓を区域ごとに分解した図(S1〜S8=クイノー区域)。中央の下大静脈・門脈を軸に、各区域は専用の門脈・肝動脈・胆管(入口)と肝静脈(出口)を持つ独立ブロック。だから隣を巻き込まず切除・塞栓できる。S1(尾状葉)は中央で下大静脈へ直接そそぐ。(区域の配置はご提供の区域分類図に準拠)

区域の並び方には、次の規則があります。

  • 3本の肝静脈(右・中・左)が、肝臓を前後・左右に切り分ける
  • 門脈の高さの水平面が、それを上下に切り分ける
  • 番号は、尾状葉(S1)を起点に反時計回りにつけていく

とくに大事なのが機能的な右葉・左葉の境目です。見た目の境目(肝鎌状間膜)ではなく、胆囊窩と下大静脈を結ぶ面(中肝静脈が走る面、カントリー線)が本当の境界です。この面より右がS5〜S8、左がS2〜S4になります。

胆道:胆汁がファーター乳頭にたどり着くまで

肝臓で作られた胆汁は、細い管が合流をくり返して十二指腸へ流れ込みます。この合流の順番が、そのまま国家試験の頻出ポイントです。

胆道と膵管の合流 肝臓・胆道・膵臓・十二指腸の解剖図。肝臓の左右の葉から右肝管と左肝管が出て合流し総肝管になる。胆囊から出た胆囊管が合流して総胆管となり、下って膵臓の中を通り、主膵管と一緒に十二指腸のファーター乳頭へ開口する。 肝臓 右肝管 総肝管 胆囊管 胆囊 総胆管 乳頭に開くのはこれ 十二指腸 左肝管 膵臓 主膵管 ファーター乳頭(十二指腸乳頭) =総胆管と主膵管が合流して開口。オッディ括約筋で調節
図2:胆道と膵管の合流。右肝管・左肝管 → 総肝管 →(胆囊管が合流)→ 総胆管。膵臓の主膵管と一緒にファーター乳頭へ開く。

胆汁の順路は、上流から次のとおりです。

  1. 右肝管・左肝管 … 肝臓の中から出る、いちばん上流の枝
  2. 総肝管 … 右肝管と左肝管が合流した1本。ただしまだ胆囊管は合流していない
  3. 総胆管 … 総肝管に胆囊管(胆囊から出る管)が合流してできる本流
  4. ファーター乳頭(十二指腸乳頭) … 総胆管が主膵管と一緒に開口する出口。オッディ括約筋が胆汁と膵液の流出を調節する

胆囊は「胆汁を作る場所」ではなく、肝臓が作った胆汁をためて濃縮する袋です。食事をすると収縮して、胆囊管 → 総胆管を通して胆汁を送り出します。

膵臓:1つの臓器に2つの工場

膵臓は、はたらきの違う2つの「工場」が同居した臓器です。

  • 外分泌(消化液の工場) … 腺房細胞膵液(アミラーゼ・リパーゼ・トリプシンなど)を作り、主膵管を通ってファーター乳頭から十二指腸へ出す
  • 内分泌(ホルモンの工場) … ランゲルハンス島という細胞のかたまりが、ホルモンを直接血液へ出す

内分泌のほうは、細胞の種類ごとに出すホルモンが決まっています。

細胞出すホルモンはたらき
α(A)細胞グルカゴン血糖を上げる
β(B)細胞インスリン血糖を下げる(島でいちばん多い)
δ(D)細胞ソマトスタチンまわりの分泌をおさえる

膵臓は形の上では、十二指腸のC字カーブに抱かれる膵頭、まん中の膵体、脾臓に届く膵尾に分かれます。膵液を運ぶ主膵管(ウィルスング管)は膵臓を長軸方向に貫き、総胆管と合流してファーター乳頭へ向かいます。

後腹膜:動く臓器と、動かない臓器

お腹の臓器は、腹膜という膜との位置関係で「よく動くもの」と「壁に固定されて動かないもの」に分かれます。CTで臓器を見つけるときも、超音波でプローブを当てるときも、この区別が土台になります。膜の内と外で、こう分かれます。

  • 腹腔内臓器(腹膜につつまれ、腸間膜でぶら下がる=よく動く) … 胃・空腸・回腸・横行結腸・S状結腸
  • 後腹膜臓器(腹膜の背側に固定され、腸間膜を持たない=動かない) … 膵臓・十二指腸(球部を除く)・腎臓・副腎・尿管・上行結腸・下行結腸・腹部大動脈・下大静脈

腸間膜を持つ=可動、持たない=固定」という対応がポイントです。腸間膜は、腸を腹壁からぶら下げて血管・神経を運ぶ膜です。これがある腸はよく動き、ないものは後腹膜に貼りついて動きません。

病理・臨床でよく問われる4点

解剖がわかると、消化器の病態も理由から理解できます。国家試験でくり返し出る4点をまとめます。

① 大腸癌が肝臓に転移しやすい理由

消化管(胃・小腸・大腸)から出た静脈血は、心臓へ戻る前にいったん門脈に集まって肝臓を通ります。肝臓は「消化管からの血液の最初の関所」です。だから消化管のがん細胞は、血流に乗るとまず肝臓に引っかかります。肝転移の原発として最も多いのは大腸癌(第78回 午後 問41)で、これは門脈という解剖から説明できます。

② 肝硬変の合併症

肝臓が硬く縮む肝硬変では、2つの流れが同時に起こります。

  • 門脈圧が上がる … 肝臓が硬くて門脈血が通りにくくなる。行き場を失った血液が回り道(側副血行路)を作り、食道静脈瘤ができる。脾臓もうっ血して腫れ(脾腫)、そこで血小板が壊されて血小板が減少する。血液の水分がしみ出して腹水もたまる
  • 肝細胞のはたらきが落ちる … ビリルビンを処理できず黄疸、アンモニアを解毒できず高アンモニア血症(進むと肝性脳症)

③ 消化管の上皮:食道と肛門は仲間

消化管の内側をおおう上皮は、場所によって種類が変わります。食物がこすれて通る入口と出口は、丈夫な重層扁平上皮栄養を吸収・分泌する胃〜腸は、単層円柱上皮です。

  • 重層扁平上皮(摩擦に強い) … 食道・肛門管の下部
  • 単層円柱上皮(吸収・分泌向き) … 胃・十二指腸・小腸・大腸

「食道と同じ上皮を持つのは」(第78回 午前 問49=肛門)は、この「入口と出口は扁平上皮の仲間」で解けます。

④ 門脈に流入する血管

門脈は、消化管と脾臓の静脈血を集めて肝臓へ運ぶ血管です。上腸間膜静脈・下腸間膜静脈・脾静脈などが合流して門脈になります(第78回 午前 問42)。門脈系のくわしい枝分かれは、循環器の記事の門脈の図で確認できます。

まとめ

  • 肝臓のクイノー8区域は、1区域ごとに門脈・肝動脈・胆管の入口と、肝静脈の出口を持つ独立ブロック。だから切除・塞栓の単位になる。S1(尾状葉)は下大静脈へ直接そそぐ特別な区域
  • 胆汁の順路は「右肝管・左肝管 → 総肝管 →(胆囊管合流)→ 総胆管 → ファーター乳頭」。乳頭に開くのは総胆管と主膵管の2本だけ。オッディ括約筋が調節する
  • 膵臓は外分泌(膵液)と内分泌(ホルモン)の2つの工場。ランゲルハンス島のα=グルカゴン・β=インスリン・δ=ソマトスタチン
  • 後腹膜臓器(膵・十二指腸・腎・上行/下行結腸など)は腸間膜を持たず固定。腹腔内臓器(胃・空腸回腸・横行結腸・S状結腸)は腸間膜でぶら下がり可動
  • 病態は解剖から説明できる。大腸癌の肝転移=門脈肝硬変の血小板減少=脾腫食道と肛門=重層扁平上皮

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