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基礎医学

呼吸器の解剖(肺葉と肺区域・気道・縦隔・胸膜)

呼吸器は、解剖そのものが胸部X線・CTの読影に直結する分野です。肺葉・肺区域・縦隔・胸膜は、名前を覚えるだけでなく「どこにあるか」が分かると、画像問題までまとめて解けるようになります。

この記事では、空気の通り道(気道)から始めて、肺葉と肺区域・縦隔・胸膜・呼吸筋の順に、形にどんな理由があるかを軸に整理します。

気道:なぜ誤嚥物は右肺に落ちるのか

空気は 鼻・口 → 咽頭 → 喉頭 → 気管 → 主気管支 → 葉気管支 → 区域気管支 → …→ 肺胞 と進みます。

気管は第4〜5胸椎の高さで左右に分かれます。この分岐部を気管分岐部(カリーナ)といいます。ここで、左右の主気管支にははっきりした差があります。

気道と肺葉 気管と左右の肺の解剖図。前から見た図で、からだの右が図の左。気管は気管分岐部で左右の主気管支に分かれる。右主気管支は太く短く垂直に近いため、誤嚥物が右肺へ落ちやすい。右肺は上葉・中葉・下葉の3葉、左肺は上葉・下葉の2葉に色分けされている。左肺には心臓のためのくぼみ(心切痕)がある。下には横隔膜がある。 からだの右 からだの左 気管 右肺 上葉 右主気管支 太く・短く・垂直に近い 右肺 中葉 右肺 下葉 気管分岐部(カリーナ) 左肺 上葉 左主気管支 細く・長く・水平に近い 左肺 下葉 心切痕(心臓が入る) 横隔膜
図1:気道と肺葉(からだの右が図の左)。右主気管支は太く短く垂直に近いので、誤嚥物は右肺へ落ちやすい。

右主気管支は、左に比べて「太く・短く・垂直に近い」——これが最重要ポイントです。心臓が左に寄っているぶん、左主気管支は心臓をよけて長く・水平に走ります。

その結果、誤嚥した異物や吐物は、まっすぐ落ちて右肺(とくに右下葉)に入りやすい。誤嚥性肺炎が右下葉に多いのはこのためです。気管挿管でチューブを深く入れすぎると右主気管支に片肺挿管になるのも同じ理屈です。

肺葉と肺区域:左肺にS7がない理由

肺はまず(ロブ)に分かれ、さらに細かい区域(セグメント、S)に分かれます。

  • 右肺上葉・中葉・下葉の3葉。区域は S1〜S10 の10区域
  • 左肺上葉・下葉の2葉。区域は 8区域

左肺が小さいのは、心臓が左に寄っているからです。左肺の前下部には心臓のためのくぼみ(心切痕)があり、中葉に相当する部分がありません。その代わりに上葉の下部が舌のように伸びた舌区(S4・S5)があります。

区域の番号でも、左肺だけ2つの特徴があります。

右肺左肺
3葉(上・中・下)2葉(上・下)
区域S1〜S10(10区域)8区域
特徴中葉=S4・S5S1とS2が融合してS1+2S7がない/舌区=S4・S5

縦隔:左右の肺にはさまれた中央部

縦隔は、左右の肺にはさまれた胸腔の中央部分です。境界は、上が胸郭上口、下が横隔膜、前が胸骨、後ろが脊椎。

縦隔の区分 胸部を横から見た縦隔の区分図。前が左、後ろが右。胸骨角と第4胸椎を結ぶ線より上が上縦隔。その下は、心膜より前が前縦隔、心膜と心臓の部分が中縦隔、心膜より後ろが後縦隔。上縦隔には胸腺・大血管・気管・食道、中縦隔には心臓、後縦隔には食道・下行大動脈・胸管が入る。 前(胸骨側) 後(脊椎側) 上縦隔 胸腺・大血管・気管・食道・胸管 前縦隔 胸腺 中縦隔 心臓・心膜 肺動脈・肺静脈 後縦隔 食道・下行大動脈 胸管・奇静脈 胸骨角〜Th4 この線より上が上縦隔 胸骨 脊椎 横隔膜
図2:縦隔の区分(横から見た図・前が左)。胸骨角〜Th4の線より上が上縦隔。下は前・中・後に分かれる。

縦隔は、胸骨角と第4胸椎を結ぶ線を境に上下に分けます。

  • 上縦隔 … 胸腺・大血管(上大静脈・大動脈弓)・気管・食道・胸管
  • 前縦隔 … 心膜より前。胸腺が主。胸腺腫の好発部位
  • 中縦隔心臓と心膜、肺動脈・肺静脈、気管分岐部
  • 後縦隔 … 心膜より後ろ。食道・下行大動脈・胸管・奇静脈

肺は縦隔の中身ではありません。縦隔を「はさむ側」なので、定義から外れます。ここが引っかけどころです。

胸膜:肺を包む2枚の膜

肺は2枚の胸膜に包まれています。風船に指を押し込んだような入れ子構造です。

胸膜と胸膜腔 胸壁から肺までの断面の模式図。外側から胸壁、壁側胸膜、胸膜腔、臓側胸膜、肺の順に並ぶ。臓側胸膜は肺の表面に密着し、壁側胸膜は胸壁の内面をおおう。そのあいだの胸膜腔には少量の胸水がある。 胸壁(肋骨・筋) 壁側胸膜 胸壁の内面をおおう 胸膜腔 少量の胸水/陰圧 臓側胸膜 肺の表面に密着 外側 内側
図3:胸膜。肺の表面に密着するのが臓側胸膜、胸壁の内面をおおうのが壁側胸膜。あいだが胸膜腔。
  • 臓側胸膜(肺胸膜)肺の表面にぴったり密着する膜
  • 壁側胸膜胸壁の内面をおおう膜
  • 胸膜腔 … 2枚のあいだの狭いすきま。少量の胸水があり、陰圧に保たれている

胸膜腔が陰圧だからこそ、胸郭が広がると肺もいっしょに膨らみます。ここに空気が入ると陰圧が失われ、肺がしぼむのが気胸です。

臓側胸膜への浸潤があるかどうかは、肺癌の病期(T分類)を分ける重要な所見です。

呼吸筋:吸うときは筋を使い、吐くときは使わない

呼吸は、胸郭の容積を変えることで起こります。

  • 横隔膜 … 最も主要な呼吸筋。収縮して下がると胸腔が広がり、息が吸える(腹式呼吸)。安静時の吸気の約7割を担う
  • 外肋間筋 … 収縮すると肋骨が持ち上がり、胸郭が広がる(胸式呼吸

大事なのは、安静時の呼気には筋を使わないことです。肺と胸郭の弾性で自然に縮んで戻ります。努力して吐くときだけ、内肋間筋や腹筋群が働きます。

まとめ

  • 気道は 気管 → 主気管支 → 葉気管支 → 区域気管支 → 肺胞。分岐部がカリーナ
  • 右主気管支は太く・短く・垂直に近い誤嚥物は右肺(右下葉)へ。片肺挿管も右に起こりやすい
  • 右肺は3葉・S1〜S10の10区域左肺は2葉・8区域
  • 左肺は心臓のぶん小さい → S1+2で融合・S7がない・中葉のかわりに舌区(S4・S5)
  • 縦隔=左右の肺にはさまれた中央部。肺は縦隔の中身ではない
  • 縦隔は胸骨角〜Th4の線より上が上縦隔。下は前(胸腺)・中(心臓)・後(食道・下行大動脈)
  • 胸膜は臓側(肺に密着)壁側(胸壁の内面)。あいだの胸膜腔は陰圧で、破れると気胸
  • 呼吸筋は横隔膜と肋間筋安静時の呼気は筋を使わない

呼吸器は「心臓が左に寄っている」という一点から、左肺が小さい・S7がない・左主気管支が長い、と多くのことが説明できます。形の理由をたどれば、細かい番号もつながって見えてきます。

過去問での問われ方は、第78回第77回第76回の解答・解説で確認できます。

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