脳・神経の解剖(灰白質と白質・脳幹・髄膜・視覚路)
脳・神経は、国家試験で解剖単独でも、画像診断でも問われる分野です。名前が似た構造(黒質・被殻・淡蒼球…)が多く、丸暗記だと取りこぼしますが、灰白質か白質か・どこにあるか・何をするかの3点で整理すると、迷いが消えます。
この記事では、神経系の全体像から始めて、大脳・脳幹・髄膜・視覚路の順に、位置と役割をセットで押さえていきます。
まず大原則:灰白質は「細胞体」、白質は「線維」
中枢神経(脳と脊髄)は、見た目の色で2つに分けられます。
- 灰白質(かいはくしつ) … 神経細胞の本体(細胞体)が集まるところ。少し灰色がかって見える
- 白質(はくしつ) … 軸索(神経線維)の束が通るところ。脂の膜(髄鞘)に包まれて白く見える
この区別が、そのまま出題されます。「細胞体が集まれば灰白質、線維の束なら白質」 ——これだけで解ける問題があります。
| 灰白質(細胞体) | 白質(線維の束) | |
|---|---|---|
| 大脳 | 表面の皮質、深部の基底核 | 内部の内包・脳梁・放線冠 |
| 配置 | 大脳では外側(皮質)と深部の核 | 大脳では内側 |
| 脊髄 | 中心(H字・蝶形) | 外側 |
大事なのは、大脳と脊髄で灰白質・白質の位置が逆なことです。大脳は灰白質が外(皮質)、脊髄は灰白質が中(H字)。ここは頻出です。
大脳:皮質・基底核・内包の位置関係
大脳の深部には、灰白質の核(基底核)と、その間を縫う白質(内包)が、決まった配置で並んでいます。この水平断の地図が、画像診断の土台になります。
押さえるのは配置の順番です。外側から 被殻 → 淡蒼球 と並び、この2つを合わせてレンズ核と呼びます。レンズ核の内側を、白質の内包が「への字」に走り、その内側に前は尾状核、後ろは視床があります。
- 被殻・淡蒼球・尾状核 … まとめて大脳基底核(灰白質)。運動の調整に関わる
- 内包 … 大脳皮質と脳幹・脊髄を結ぶ運動・感覚の線維がぎゅっと集まる白質。ここに小さな脳出血が起きるだけで手足が麻痺する
- 視床 … 全身の感覚を大脳へ中継する灰白質
脳幹:中脳・橋・延髄と、黒質のありか
脳を正中で切ると、大脳の下に脳幹(上から中脳・橋・延髄)が続き、その後ろに小脳があります。脳幹は、呼吸・循環・意識といった生命維持の中枢で、脳神経の多くもここから出ます。
中脳には、名前の紛らわしい構造が集中していて、頻出です。中脳の構成は 大脳脚・黒質・赤核・中脳水道・四丘体 の5つ。
- 黒質(こくしつ) … メラニン色素を含み、肉眼で黒く見えるのが名の由来。ここのドパミン神経細胞が減るのがパーキンソン病
- 四丘体 … 中脳の背側にある4つのふくらみ。上は視覚、下は聴覚の反射に関わる
髄膜と脳脊髄液:3枚の膜と、水が入る場所
脳と脊髄は、外から 硬膜・くも膜・軟膜 の3枚の膜(髄膜)に包まれています。この膜の順番と、どの隙間に脳脊髄液(CSF)が入るかが問われます。
順番は外から 硬膜(かたい)→ くも膜 → 軟膜(やわらかい)。脳脊髄液が入るのは、くも膜と軟膜のあいだ=くも膜下腔です。ここには血管も走っていて、動脈瘤が破れるとくも膜下出血になります。
- 硬膜外腔・硬膜下腔 … 正常では脳脊髄液は入らない。血がたまると硬膜外血腫・硬膜下血腫
- くも膜下腔 … 脳脊髄液で満たされる。腰椎で針を刺してここから採るのが腰椎穿刺
脳神経は12対:番号と役割
脳から直接出る末梢神経が脳神経(12対)です。番号(ローマ数字)と主な働きが問われます。
| 番号 | 名前 | 主な働き |
|---|---|---|
| Ⅰ | 嗅神経 | におい |
| Ⅱ | 視神経 | 見る |
| Ⅲ・Ⅳ・Ⅵ | 動眼・滑車・外転神経 | 眼を動かす |
| Ⅴ | 三叉神経 | 顔の感覚・咀嚼 |
| Ⅶ | 顔面神経 | 表情・涙・唾液・味 |
| Ⅷ | 内耳(聴)神経 | 聞く・平衡 |
| Ⅸ・Ⅹ | 舌咽・迷走神経 | 嚥下・内臓 |
| Ⅺ | 副神経 | 首・肩の運動 |
| Ⅻ | 舌下神経 | 舌の運動 |
とくにⅧ(聴神経) は、神経鞘腫(シュワン細胞由来の腫瘍)が最も多く発生する神経として出ます。
視覚路と視野障害:どこで切れると、どこが見えなくなるか
眼から後頭葉までの視覚路は、途中の視交叉で「鼻側の線維だけが交差する」のが最大の特徴です。この配線を知っていれば、どこが障害されるとどの視野が欠けるかを導けます。
ポイントは視交叉で鼻側だけが交差することです。ここから、障害部位と視野障害が一対一で決まります。
- ①視神経 の障害 … その眼が全盲(片眼だけ見えない)
- ②視交叉 の障害 … 交差する鼻側線維がやられ、両耳側半盲(両目の外側が欠ける)。下垂体腫瘍が下から視交叉を押すのが典型
- ③視索より後ろ の障害 … 反対側の同名半盲(両目の同じ側が欠ける)
下垂体腫瘍=両耳側半盲は画像とセットで頻出です。下垂体はトルコ鞍に収まり、そのすぐ上を視交叉が通る——この位置関係が理由です。
脳腫瘍:脳の「中」から出るか、「外」から押すか
脳腫瘍は、脳実質の中から発生する(軸内)か、脳の外から圧迫する(軸外)かで大きく分かれます。名前から出どころを見抜けるようにします。
| 腫瘍 | 出どころ | 軸内 / 軸外 |
|---|---|---|
| 膠芽腫 | グリア細胞(脳実質の支持細胞) | 軸内 |
| 髄膜腫 | くも膜 | 軸外 |
| 神経鞘腫 | シュワン細胞(末梢神経の鞘) | 軸外 |
| 下垂体腺腫 | 下垂体前葉 | 軸外(鞍内) |
| 頭蓋咽頭腫 | ラトケ嚢の遺残 | 軸外(鞍上部) |
覚え方は名前のヒントです。膠芽腫の「膠(にかわ)」=グリアなので脳実質内(軸内)。悪性度が最も高い脳腫瘍です。一方、髄膜腫はくも膜、神経鞘腫はシュワン細胞の由来で、どちらも脳の外から押す軸外腫瘍です。
まとめ
- 灰白質=細胞体、白質=線維の束。大脳は灰白質が外(皮質)と深部の核、脊髄は灰白質が中(H字)
- 基底核は外から 被殻・淡蒼球(=レンズ核)、前に尾状核、後ろに視床。あいだを白質の内包が走る
- 中脳の5つ=大脳脚・黒質・赤核・中脳水道・四丘体。黒質のドパミン細胞が減るのがパーキンソン病
- 髄膜は外から 硬膜・くも膜・軟膜。脳脊髄液はくも膜下腔(くも膜と軟膜のあいだ)
- 脳神経は12対。神経鞘腫は聴神経(Ⅷ)に最多。視神経には出ない
- 視交叉で鼻側だけ交差。視交叉の障害=両耳側半盲(下垂体腫瘍が典型)
- 脳腫瘍は軸内(膠芽腫)か軸外(髄膜腫・神経鞘腫)か。名前で出どころを見抜く
脳・神経も「位置と役割」に理由があります。灰白質か白質か・どこにあるか・何をするかの3点で、似た名前の構造もつながって見えてきます。