上肢・下肢の骨と関節(腱板・手根骨・半月板・足根骨)
四肢の骨と関節は、国家試験で解剖単独でも、画像問題でも問われる分野です。手根骨8個・足根骨7個のように「数と名前を覚えるだけ」に見えますが、実際に問われるのは どこにあるか・何が通るか・なぜそこが壊れるか です。
この記事では、肩・肘・手・膝・足の順に、形にどんな意味があるのかから整理します。丸暗記ではなく、理由から引き出せるようにするのが狙いです。
まず大原則:橈骨は母指側、尺骨は小指側
上肢の問題は、ほぼすべてここから出発します。
- 橈骨(とうこつ) … 母指側=外側。手のひらを前に向けた姿勢(解剖学的正位)で、体の外側にある
- 尺骨(しゃっこつ) … 小指側=内側
「橈」の字は「とう」と読み、母指(おやゆび)とセットで覚えます。この対応さえ崩れなければ、肘でも手首でも迷いません。
下肢も同じ構造です。
- 脛骨(けいこつ) … 内側。体重を支える太い骨
- 腓骨(ひこつ) … 外側。細い骨で、体重はほとんど支えない
X線写真で左右どちらの手足かを判断するときも、この「細い骨がどちら側にあるか」が最初の手がかりになります。
肩:腱板は4つ、切れるのはほぼ棘上筋
腱板(けんばん、ローテーターカフ) は、肩甲骨から起こって上腕骨頭を包み込む4つの筋の腱です。上腕骨頭を関節窩に引きつけて、肩がはずれないように安定させています。
| 筋 | 肩甲骨のどこから | どこに付く | 位置 |
|---|---|---|---|
| 棘上筋 | 棘上窩(肩甲棘の上) | 大結節 | 上 |
| 棘下筋 | 棘下窩(肩甲棘の下) | 大結節 | 後ろ |
| 小円筋 | 肩甲骨の外側縁 | 大結節 | 後ろ下 |
| 肩甲下筋 | 肩甲下窩(肩甲骨の前面) | 小結節 | 前 |
覚え方は 「前が肩甲下筋、上が棘上筋、後ろが棘下筋・小円筋」。大結節に付くのが3つ、小結節に付くのは肩甲下筋だけ、という非対称も出題されます。
なぜ棘上筋ばかり切れるのか
腱板断裂の9割以上が棘上筋に起こります。理由は図を見れば明らかで、棘上筋腱だけが肩峰の下をくぐるからです。
腕を上げると、棘上筋腱は肩峰(上)と上腕骨頭(下)にはさまれます。この繰り返しですり減っていくのが肩峰下インピンジメントで、進行すると断裂します。ほかの3つは肩峰の下を通らないので、この機序が起きません。
だから肩のMRIは棘上筋が主役です。斜位冠状断(肩甲棘に沿った断面)で撮ると、棘上筋を起始から大結節への付着部まで一本の線として追えます。
肘:小頭は外側、滑車は内側
肘関節は 上腕骨・橈骨・尺骨 の3つで作られます。ここでも「橈骨は母指側=外側」から出発します。
- 上腕骨小頭 … 遠位の外側にある球状の関節面。橈骨頭と関節する
- 上腕骨滑車 … 遠位の内側にある糸巻き状の関節面。尺骨と関節する
- 外側上顆・内側上顆 … 遠位で内外に突出する部分。内側上顆の後ろを尺骨神経が通る
- 肘頭 … 尺骨の近位端の大きな突起。肘の後ろで触れるところ
「小頭は外側で橈骨と、滑車は内側で尺骨と」 をセットで覚えます。橈骨は母指側なので、橈骨頭が当たる小頭も自動的に外側、と導けます。
肘をぶつけたときにしびれるのは、内側上顆の後ろを走る尺骨神経が骨に直接あたるからです。ここは皮膚のすぐ下を神経が通る場所で、俗に「ファニーボーン」と呼ばれます。
手根骨:8個を2列で覚える
手根骨は8個あり、近位列4個・遠位列4個の2列に並びます。
覚え方は 「舟・月・三角・豆/大・小・有頭・有鉤」。母指側から小指側へ、近位列→遠位列の順に唱えます。
押さえるべき3点です。
- 舟状骨は骨折の好発部位。転んで手をついたときに折れる。血流が遠位から入るため、近位側が壊死しやすく偽関節になりやすい。初回のX線で写らないこともあり、要注意骨折として知られる
- 豆状骨は三角骨の手前(手のひら側)にある。正面像では三角骨に重なって写る
- 足根骨にも「舟状骨」がある。名前が重複するのはこれだけ
手根管:なぜ正中神経だけがしびれるのか
手根骨は平らに並んでいるのではなく、手のひら側に凹んだアーチを作っています。そのアーチの両端を橋渡しするように、屈筋支帯(横手根靱帯) という丈夫な帯が張っています。
骨のアーチ(床と壁)+屈筋支帯(天井)=手根管(手根トンネル) です。
トンネルの中を通るのは、9本の屈筋腱(浅指屈筋腱4・深指屈筋腱4・長母指屈筋腱1)と、正中神経1本だけです。
ここで決定的なのは、正中神経が屈筋支帯のすぐ内側にいることです。屈筋支帯は伸びない丈夫な帯なので、トンネルの中身がむくんだり腱鞘が腫れたりすると、内圧が逃げ場を失って、いちばん天井側にいる正中神経が押しつぶされます。これが手根管症候群で、母指から環指のしびれが出ます。
一方、尺骨神経は手根管を通りません。屈筋支帯の外側(手のひら寄り)にある別の通り道=ギヨン管(Guyon管) を通ります。図でも、尺骨神経と尺骨動脈がトンネルの外にあるのが分かります。だから手根管症候群では小指はしびれません。
膝:外側半月板はO字、内側半月板はC字
半月板は、大腿骨と脛骨のあいだにはさまる線維軟骨の板です。丸い大腿骨顆と平らな脛骨高原のすき間を埋めて、接触面積を広げて荷重を分散させるのが役割です。
内外で形がはっきり違います。
- 外側半月板 … O字に近い、ほぼ閉じた輪。前後の付着部が近く、よく動く
- 内側半月板 … C字の開いた三日月。内側側副靱帯と関節包にがっちり癒着していて、あまり動かない
この動きの差が、そのまま損傷しやすさの差になります。逃げられない内側半月板のほうが損傷しやすい、というのが原則です。
十字靱帯
前十字靱帯(ACL) と 後十字靱帯(PCL) は、関節の中央で立体的に交差しています。名前は脛骨側の付着部が前か後ろかで決まります。
- 前十字靱帯 … 脛骨の前方から、大腿骨外側顆の後方へ。脛骨が前へずれるのを止める。スポーツ外傷で断裂が多い
- 後十字靱帯 … 脛骨の後方から、大腿骨内側顆の前方へ。脛骨が後ろへずれるのを止める
MRIの矢状断では、前十字靱帯は「脛骨の前方から大腿骨外側顆の後上方へ斜めに走る、まっすぐな低信号の索」として見えます。
足根骨:7個と、2本の関節線
足根骨は7個です。手根骨の8個と間違えやすいので、「手が8・足が7」とセットで覚えます。
後ろから前へ、距骨・踵骨 → 舟状骨・立方骨 → 楔状骨3個 と並びます。
足の甲を横切る関節線が2本あり、どちらも名前を問われます。
- ショパール関節(横足根関節) … 距骨・踵骨 と 舟状骨・立方骨 のあいだ。後ろ寄り
- リスフラン関節(足根中足関節) … 楔状骨・立方骨 と 中足骨 のあいだ。前寄り
覚え方は 「シ→リ」の順に前へ進む。五十音でシがリより先に来るのと、位置が後ろから前へ進むのが一致します。
まとめ
- 橈骨は母指側(外側)、尺骨は小指側(内側)。下肢では腓骨が外側。すべてここから出発する
- 腱板は4つ(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)。大結節に3つ、小結節に肩甲下筋
- 腱板断裂の9割は棘上筋。肩峰の下をくぐるのが棘上筋だけだから
- 上腕二頭筋長頭腱は腱板ではない(頻出のひっかけ)
- 小頭は外側で橈骨と、滑車は内側で尺骨と関節する
- 手根骨は8個=舟・月・三角・豆/大・小・有頭・有鉤。舟状骨は骨折の好発で偽関節になりやすい
- 骨年齢は手根骨(左手)で評価する
- 手根管を通るのは正中神経と9本の屈筋腱。尺骨神経はギヨン管を通るので手根管症候群で小指はしびれない
- 外側半月板はO字、内側半月板はC字。動けない内側のほうが損傷しやすい
- 足根骨は7個(手が8・足が7)。ショパールが後ろ、リスフランが前
四肢の解剖も、脊椎と同じく「形に理由がある」分野です。何が通るか・何にはさまれるかを意識すると、どこが壊れるかまで一本につながります。